春男だけではなく、周りの面々も個性的なキャラクター
食堂のおばちゃんのみならず、春男をとりまく人たちもみんな魅力的である。とりわけ、スーパーウメヤで働く同僚の高井さん。彼女はスーパーで、春男に唯一、本音で関わってくる。ことあるごとに淡々とした表情で春男の妄想の鼻をへし折る。とことん善人に見える春男が心のなかでは若干、自分本位なところがあることを見透かしている鋭い高井さん。でも、彼女がいることで、春男は救われている部分がある。ある場面の高井さんと春男はかなりいい。泣ける。ファーストサマーウイカだとはわからないほどのナチュラルメイク&ぱっつんボブで、それもお似合いなのだ。
もう一人いい味出しているのが、小山春朋演じる春男の息子、亮太。小学生にもかかわらず父親を上目線で見ているようなところがあって、愉快だ。亮太もまた、高井さんのように春男のいじましい努力をからかう。でもそこがいい。スーパーの高井さんと家庭での亮太、この2人が春男にツッコむからこそ春男も思いきり妄想の世界に入り込めるように感じる。
スーパーで働く人たちにもそれぞれドラマがある。本社からやってきた、いまいち頼りない新店長の西口や熱血若手店員金子くん、店員の清水さんなどなど…春男は彼らとちゃんと向き合おうとする。職場の人間関係のいいことも残念なことも、リアルに描かれている。現場のみんなで一致団結、信頼関係が結ばれているかと思ったけれど、みんなそれぞれの想いや正義や目的をもって働いていて、合致する時はいいけれど、合致しないとたちまち崩れてしまう。なんとも苦い社会の真理を突きつけられることもあるが、それでも春男はよかれと思ったことをやり続ける。
春男の孤軍奮闘は誰も傷つけない。自己肯定感が極めて高い春男だが、心のなかで毒を吐くことはあっても、他者のことも決して否定することはない。自分のことも同僚のことも家族のこともみんなを認めている。春男を演じた安田は最初に台本を読んだ時、「この人はスーパーマン過ぎる。こんなにいい人はいないんじゃないですか?」と監督に初見を述べたそうだが、本当に春男は稀に見るいい人なのだ。「かっこつけたい」という人間的なところもあって、それだって誰だって思うことだと感じる。そういうちまちましたところも含めて、彼のあらゆる言動を観ていると、自分も肯定される気がしてきてしまう。余談だが、いま、これを書きながら、スーパーマンは”スーパー”に掛けているのだろうかと考えてしまうほど。
主としてスーパーと伊澤家の家庭を舞台に、そこで春男が右往左往する話かと思って観ていると、途中で意外な展開も待っている。妻の律子も単なるいい奥さんかと思いきや、驚きのドラマが…。突如、舞台は沖縄へ。春男が乗る沖縄のタクシーの運転手・金城は日本を代表するスカバンド、KEMURIの伊藤ふみおが扮している。春男がなぜこんなにも人のために頑張っているのか、その理由が、そして家族の秘密が浮かび上がってきた時、安田が言うように春男が「スーパーヒーロー」だという意味がよくわかる。とても心が温まる。ありがとう、俺たちの春男。
文/木俣 冬