友情に恋愛、ヒーローとしての在り方…青春ドラマとして見ても「スパイダーマン」はグッとくる!
「スパイダーマン」の原作コミックスに登場するキャラクターたちを映画化し、世界観を共有する一連の物語(ユニバース)を展開するプロジェクト、“スパイダーマン・ユニバース”。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)と世界観をシェアしてからというもの、人気がうなぎのぼりのトム・ホランド版「スパイダーマン」だが、その魅力は、なんといってもMCUに出てくるスーパーヒーローのなかでも、スパイダーマンことピーター・パーカーが一番若く、ある意味幼さの際立つ弟キャラだということだろう。
いままでこのシリーズでは、実直で無邪気な幼さゆえに起こしてしまった事件が描かれてきた。だが、素直すぎるキャラクターが「幼いからダメだ」という評価がどこにもないのは、脚本が練られているポイント。1作ごとにピーターは困難を乗り越え、スーパーヒーローとしての職分を理解していく成長物語として描いているため、ティーンの目には自分事として、大人の目には爽やかな青春成長モノとして映るのだ。そこで、最新作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(1月7日公開)へ向けて、トム・ホランド版「スパイダーマン」の青春ドラマとしてのプロットにフィーチャーする。
失敗を重ね、悩みながらヒーローとして成長してきたピーター・パーカー
『スパイダーマン:ホームカミング』(17)はスパイダーマンが初めてアベンジャーズに参加した『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)から続く物語。トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)に認められたくて仕方がなく、スーパーヒーローとしてもっと活躍したいと張り切るピーターの奮闘が描かれている。しかし、その純粋な想いも若者ならではの承認欲求を満たすものであり、空回りし続ける彼は大勢の犠牲者を出しかねない失態を起こし、トニーからも失望されてしまう。本作では、まだまだ未熟なピーターが、失敗を重ねながらヒーローとしての在り方を認識することで、少しだけ大人へと成長する。
一方で、ヒーローと高校生の二足の草鞋を履くピーターの学園生活も見どころ。親友のネッド(ジェイコブ・バタロン)と共に学園ヒエラルキーの底辺に属する彼は、校内では嘲笑の対象だ。そんな彼が上級者のイケてる女子、リズ(ローラ・ハリアー)に淡い恋心を抱き、学内パーティ=ホームカミングのパートナーに誘うまでの、たどたどしいアプローチがなんとも初々しい。自分より大人に見える年上のリズに対する想いもまた、早く一人前になりたいと願うピーターの心情を表しているように感じられるが、こういった感情は誰しもが覚えのあるものではないだろうか。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)からつながる第2作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19)では一転、サノスとの戦いで命を落としたアイアンマンの後継者として、世界中から期待されることに。あまりにも大きすぎる重圧から逃れたいピーターは、スパイダーマンのスーツを家に置いて、高校の欧州研修旅行へ出かけてしまう。その旅行中で彼は、意中の相手、MJ(ゼンデイヤ)へ告白するチャンスをねらうが、恋敵のクラスメイトの存在やニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)からの度重なる要請、強敵エレメンタルズの襲撃に邪魔されてしまう。
トニーを失った喪失感にも向き合えないまま、新たな戦いに巻き込まれてしまうピーター。宇宙規模の戦いを乗り越えたものの、まだティーンエイジャーである彼が、ヒーローを続けていくことに不安を感じ、恋や青春といった学園生活を満喫したいと思うのは当然だろう。しかし、そんな迷いがミステリオ(ジェイク・ギレンホール)の悪巧みを手助けすることになり、ネッドやMJにまで危険がおよぶ。本作は、悩める若者が進む道を定め、覚悟を決めて取り組もうとする、普遍的な青春ドラマとしても見ることができる。