窪田正孝&宮沢りえが明かす、“笑い”の演技へのこだわり「りえさんじゃなかったら成立していなかった」
映画、テレビドラマ、舞台と目覚ましい活躍をし続ける窪田正孝と宮沢りえが、初共演を果たした。しかも、事なかれ主義の議員秘書と、政界に無知な候補者を演じるという。この情報を聞いた時点で「これはおもしろい映画になるに違いない」と期待を抱いた人は、少なくないだろう。
1月7日(金)に公開を迎えるポリティカルコメディ『決戦は日曜日』は、自由奔放だが熱意だけは人一倍な候補者、川島有美(宮沢)に振り回される私設秘書、谷村勉(窪田)に降りかかるトラブルの数々をシニカルに描いた痛快作。失言の数々や悪質な配信者…時事ネタも果敢に盛り込み、観る者を笑いの渦に包み込む。さらに、窪田と宮沢が魅せる駆け引きが作品の推進力となり、5年以上をかけて脚本を練り上げたという新鋭・坂下雄一郎監督のオリジナリティあふれる物語を一段階上のエンタテインメントへと押し上げている。
今回は、そんな2人に単独インタビューを敢行。和やかな雰囲気のなかで行われた対談をお楽しみいただきたい。
「このタイミングでこの作品に出演できて本当によかった」(窪田)
――『決戦は日曜日』、シニカルな目線が詰まっていて大変おもしろかったです。こういった政治コメディは近年の日本映画では希少かと思いますが、お2人は脚本のどういった部分に惹かれましたか?
窪田「政治のことって、僕たち(芸能人)は話しづらい空気があるじゃないですか。でも、映画ではそれができる。脚本を読んだ時、坂下監督がある種、声を出せない人たちの代弁者になってくれたように感じました」
宮沢「そうだね、私たちはなかなか言えないよね…」
窪田「このタイミングでこの作品に出演できて本当によかったです。同時に、この作品にはちゃんと救いがあるんですよね。ひょっとしたらいまの世の中に人々はがっかりしているかもしれないけど、自分たちが生まれた国、日本という故郷を見捨てない“愛情”を感じました」
宮沢「私自身もそうですが、日常を過ごすなかで、社会に対してこれはどういうことなんだろう?と思うことって、誰しもあると思うんです。きっと皆さん自分の考えをお持ちで、でもそれを具体化できずに毎日に流されてしまうんですよね。そんななかで坂下監督は、政治的メッセージをコメディという手法でオブラートに包んで書いてくれた。脚本を読んだ際は、声に出してゲラゲラ笑ってしまいました。普段はどう演じるか考えながら読むから、あまり笑ったりはしないのですが、今回は客観的にケラケラ笑いながら読み進めましたね。かと思ったらドキッとする出来事があったり、またケラケラ笑えてドキッとして…」。
窪田「すごくわかります」
宮沢「この物語に込めたメッセージを作品として届けた際に、観客の皆さんがどう見てくれるかもすごく重要だと思います。社会に対して自分が抱いている疑問を具現化してくれる力がある映画だと感じています」
「ちょっとでも気を緩めたら、笑ってしまいそうで(笑)」(宮沢)
――お2人とも脚本のおもしろさに惹かれて、出演を決めたと伺いました。
宮沢「はい。ただ私は本格コメディは初めてで、政治家も演じたことがなく、『できるだろうか』という不安はありました。でも窪田さんが出演されるということを聞いて心強いなと感じましたし、なにより一緒にお芝居をしてみたかったんです。最終的には『監督ができると思ってオファーしてくれたんだし、できなかったら監督の責任だ!』くらいの気持ちでやろうと思って取り組みました(笑)」
窪田「いやあ、うれしいです。こちらこそです!」
――宮沢さんのパワフルな“攻め”の演技と、窪田さんの“受け”の演技のバランスが絶妙でした。現場ではどのように作っていったのでしょうか。
宮沢「私は自由に誠実にやらせていただきました。やりたいことも疑問もまっすぐに伝える、誠実な人であればあるほどおもしろいだろうということだけはわかっていたので、どう窪田さんが間を持って受け止めてくれるかだと。“笑い”は、受ける側が大きく支配するお芝居なんじゃないかなと思うんです。受ける側のリアクションで決まるといいますか。そういった意味で、受け止めてくださるのは窪田さんだからなんの心配もいりませんでした。めちゃくちゃ素直で裏がない役でしたし、私はすごく健康的で、本当に疲れなかった。受け止める人たちは、役柄同様本当に大変だったと思う(笑)。お疲れさまでした…」
窪田「いやいや!(笑)僕たちが演じた議員秘書はもともと汚れ切った世界にいる役柄だから、軸は候補者なんですよね。(宮沢)りえさんが光のように常に高温でいてくれたから、僕らは翻弄されていくだけでした。りえさんじゃなかったら成立していないと思います」
宮沢「いやいや…(照れる)」
窪田「いや、本当に!りえさん演じる有美さんがここまでかき混ぜてくれないと、僕たちは待ってるだけになってしまうんです。その点りえさんは自由にやってくださるから、とにかくやりやすかったです。音尾琢真さんもすごく楽しんでいらっしゃいました」
宮沢「内田慈さんも小市慢太郎さんも、とにかく巧み。赤楚衛二くんも素敵だった」
窪田「後援会メンバー役の皆さんもパワーがすごくて…(笑)」
宮沢「ちょっとでも気を緩めたら、笑ってしまいそうで(笑)。皆さんいぶし銀の魅力があって、間や受け止め方の巧みさに支えられつつ、でもこっちが口の奥を噛んでないと笑っちゃうくらいの返しをしてくださる。そんな現場でしたね。あとは監督!」
窪田「そう!監督と僕、2言くらいしか喋ってないかも(笑)」
宮沢「監督が本当にしゃべらない(笑)。喋りかけても、最小の言葉で返してくる(笑)」
窪田「おもしろいなあ(笑)」
宮沢「監督がモニターを見て笑っているのを確認して、『あ、監督が笑ってる!よし、うまくいったんじゃない?』みたいにみんながなってて(笑)。それがバロメーターというか、喜びも怒りもくみ取るしかなかった(笑)」
演者である2人もその人柄に魅了されたという、坂下監督が作り上げた力作。絶妙なバランスで魅せる窪田、宮沢を通じ、“いま”だからこそ投げかけるメッセージを、ぜひ劇場で堪能してほしい。
取材・文/SYO