「トキメキ☆成均館スキャンダル」『バーニング』『声もなく』まで…ユ・アインの演技に一貫する“大人びた少年”の顔

コラム

「トキメキ☆成均館スキャンダル」『バーニング』『声もなく』まで…ユ・アインの演技に一貫する“大人びた少年”の顔

イ・チャンドン監督との出会い、役者としての成長

独特の世界観を持ち多くの映画ファンから評価されているイ・チャンドン監督に抜擢され、『バーニング 劇場版』(18)に出演した
独特の世界観を持ち多くの映画ファンから評価されているイ・チャンドン監督に抜擢され、『バーニング 劇場版』(18)に出演した写真:EVERETT/アフロ

ユ・アインの演技力は、独特の世界観で映画ファンに支持されてきた映画監督イ・チャンドンに出逢って一気に開花することになる。この寡作な巨匠が満を持して撮りあげた『バーニング 劇場版』(18)の主役ジョンス役に抜擢されたのだ。イ・チャンドンと言えば、例えば『シークレット・サンシャイン』(07)で、子どもを事件で失った主婦役を演じたチョン・ドヨンに対し演技のディレクションは一切せず、自ら感じて役柄を生きることを求めたというエピソードがあるほど、時に役者を追い込むことで知られている。

己の感情を爆発させる思悼世子とまた違い、小説家志望の青年ジョンスに徹するには、感受性を磨き上げて極限の精神状態を演じなければならず、ほとんど自身との戦いだったに違いない。だからこそ、後々「イ・チャンドン監督が私の自意識をはっきりさせた」と口にしたように、ユ・アイン自身の演技への向き合い方が定まった作品だった。すでに彼の中にあったナイーブさをステップに、内面の深みについてさらに突き詰め、役者としてのアイデンティティを獲得したのだった。

『#生きている』(20)ではゲームオタク青年のオ・ジュヌを演じた
『#生きている』(20)ではゲームオタク青年のオ・ジュヌを演じた写真:EVERETT/アフロ

ユ・アインのフィルモグラフィが興味深いのは、こうした芸術性の高い役を演じこなす強さはもちろん、そのバリエーションの豊かさだ。彼が多くの人に発見されることになったドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」で儒生ジェシン(別名“コロ”)で“コロ病”という熱狂的ファンを獲得していたとき、そのキャラクターは素行が悪いが根は純真な性格という設定だった。実はこの“コロ”の姿は、先に挙げた『王の運命(さだめ)―歴史を変えた八日間―』と時を同じくして出演した王道恋愛ジャンルの「密会」や映画『ハッピーログイン』(16)でも見ることができる。前者は天才的なピアノの腕を持つ苦学生、後者は大人気韓流スターで、ともに年上の女性と恋に落ちるという点が共通する。人妻(「密会」)や気が強く他人を寄せ付けないドラマ脚本家(『ハッピーログイン』)に愛される魅力と、全身から醸し出される無垢さ。ユ・アインが持つ“大人びた少年”の姿が、象徴的に表れている。

政府にも影響力を持つ大財閥の3世チョ・テオを演じた『ベテラン』(15)
政府にも影響力を持つ大財閥の3世チョ・テオを演じた『ベテラン』(15)写真:EVERETT/アフロ

新作『ハイファイブ』(2021)クランクアップ!さらに広がる演技の幅

韓流ドラマに出演していた俳優たちが年齢を重ねたことで、ラブコメの王子様から演技派へと脱皮してゆく。そうした道のりに、ユ・アインも同調していると思われるかもしれない。確かに彼は最近のインタビューで「イケメンと呼ばれることをあえて捨てることで、いい作品に参加できる」ということを語っている。しかし、彼が評価されてきたのは、アクの強い男と甘い美青年、どちらもこなしてきたことにこそある。それは、成熟した大人の表情と少年の純粋さを併せ持った彼の本質がなせる技なのである。

ドラマ「シカゴ・タイプライター~時を越えてきみを想う~」でベストセラー作家のハン・セジュを演じた
ドラマ「シカゴ・タイプライター~時を越えてきみを想う~」でベストセラー作家のハン・セジュを演じた写真:EVERETT/アフロ

期待すべきユ・アインの最新作は、すでにクランクアップしている『ハイファイブ』(2021)。偶然超能力を得ることになった5人の男女と、彼らの力を奪おうとする者たちの戦いを描く物語を手掛けるのは、韓国映画界屈指のヒットメーカー、カン・ヒョンチョル監督。『サニー 永遠の仲間たち』(11)や『スウィング・キッズ』(18)など、観客の胸を熱くさせる躍動感とエモーショナルなステーリーテリングが持ち味の彼とタッグを組んだことで、一層演技の幅が広がるだろう。まだまだ当分、ユ・アインから目が離せそうにない。

文/荒井南

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