宮澤エマがひも解くスピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』「過去と現在、未来を地続きにする、巧みな演出に唸らずにはいられない」
現在公開中のスティーヴン・スピルバーグ監督最新作『ウエスト・サイド・ストーリー』。第79回ゴールデン・グローブ賞ではコメディ・ミュージカル部門で作品賞、主演女優賞、助演女優賞を受賞し、先日ノミネーション発表された第94回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、助演女優賞を含む7部門で候補となり、受賞に期待が高まっている。
エンタメ大作から重厚感漂う社会派作品まで、多岐にわたるジャンルを撮り続けてきたスピルバーグが自身のキャリアの集大成と自信をにじませる本作は、映画ファン、ミュージカルファン、音楽ファンと、様々な角度から注目されている。そんな本作を、2020年に上演されたミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」Season2でマリア役を演じた宮澤エマが鑑賞。魅力的なストーリーにキャラクター、楽曲、いまの時代だからこそより深く刺さるメッセージまで、作品の魅力をたっぷりと語ってもらった。
「この世界観を知っている人、知らない人、どなたにとっても衝撃的な映画になる」
1957年に誕生したブロードウェイ・ミュージカルの名作を映像化した本作は、1950年代のニューヨーク、ウエスト・サイドを舞台に、ヨーロッパ系移民で構成される“ジェッツ”とプエルトリコ系移民の“シャークス”の敵対する2つの少年グループが抗争を繰り広げるなかで、激しく惹かれ合った若い男女の“禁断の愛”を描くラブストーリー。
「最初から最後まで見どころしかない!」と観終わった感想を率直な言葉で表した宮澤。「1961年に初めて映画化された『ウエスト・サイド物語』は何度も観ましたし、舞台でマリア役を演じていたので、作品の結末を知ったうえで観ています。それでも、新たな映画を1本観たという満足感が湧き上がってきました」となじみのある作品が新しく生まれ変わったことに驚きを隠せない様子だ。
「あのスピルバーグが、あまりにも有名なこの名作をどんなふうにアレンジするのか?と、ちょっとお手並み拝見な気持ちもあったのですが、オープニングからオリジナルに対するものすごいリスペクトを感じると同時に、スピルバーグなりの観点で作るというメッセージも強く感じました。この世界観を知っている人、知らない人、どなたにとっても衝撃的な映画になるのではないでしょうか」。
続けて、長きにわたって愛されてきた物語を現代に、さらにミュージカル映画に特化していないスピルバーグが映画化に挑んだこと自体に意味があったと強調する。
「ジェッツとシャークスが対立する理由など、オリジナルではあまり詳しく説明されていない部分もしっかり描いている印象を受けました。SF作品をたくさん撮ってきたスピルバーグだからこその、映像美も発揮されていたと思います。1950年代の話ではありますが、現代的な要素もたくさん感じられ、年代物を観ている感覚がないんです。過去と現在、そして未来をきちんと地続きにする、監督の巧みな演出には唸らずにはいられません。背景がしっかり描かれていることで、これまで以上に世界観を理解できた気がします」と、スピルバーグならではの演出にガッチリ心をつかまれたよう。
「プエルトリコ系の女性は、自分の意志を力強く持っている人たち」
主人公はジェッツの元リーダーでいまは更生してドラッグストアで働くトニーと、シャークスのリーダーの妹、マリア。2人をはじめとするキャラクターたちへのスピルバーグの深掘りも「すばらしかった」と、宮澤は笑顔を浮かべる。「なぜトニーがジェッツから抜けたのかを明確にし、彼の人間性やバックグラウンドも掘り下げられていました。だからこそ、トニーに訪れる結末がオリジナルよりも、せつなく感じました」と目を輝かせる。
マリアについては、「マリアはいろんな意味で“主人公”なんです。とてもアクティブで、ほかの登場人物たちを動かすのも彼女の役割です。今回は“自分の未来は自分で決めたい”という意志もより強く描かれていました。それはマリアの兄ベルナルドの恋人で、トニーとの恋に反対していたアニータも同じです。同居しているベルナルドに対して、『(私も)家賃を入れているのだから、家のことについて決める時は意見を言う権利がある!』とはっきり発言するところは、いままではなかったところです。プエルトリコ系の女性は、自分の意志を力強く持っている人たちだということがしっかり伝わってくるシーンですし、舞台をやっていた時にもそのあたりの表現はとても意識していたところなので、すてきな描かれ方をしていると感じました」。
「“もし平和な時代に2人が出会っていたら…”と想像してしまう自分もいた」
「出会うはずのない2人が出会ってしまい、強烈に惹かれ合うという話。実は時間にするとたった2日間なのですが、それでも命を懸けるほどの恋をしてしまうことって、正直、わかるようでわからない気がします。61年版の映画では、愛の尊さがすごくロマンチックに描かれていた印象があり、今回もその要素は引き継がれてはいるのですが、冷静に今後を見据えて“2人が幸せになるために越えなきゃいけない壁がある”ということを理性的に考えているようにも見えます。マリアのほうが状況を俯瞰で見る瞬間、“冷静と情熱の間”というのかな…、恋に盲目にはなるけれど、強さや聡明さを残している気がしました」と61年版との違いにも言及し、アップデートされたところを分析してくれた。
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」がベースにあることもあり、「ウエスト・サイド・ストーリー」の結末は、作品に触れたことがない人でも耳にしたことがあるだろう。
「結末を知っているので、頭では理解しています。と同時に、“もし平和な時代に2人が出会っていたら…”と想像してしまう自分もいました。今回は、(もしかすると)違う未来があったかもしれないと思わせられるようなシーンも見られたからこそ、よりせつなさが強調された気がします」。
東京都出身。2013年にミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング 〜それでも僕らは前へ進む〜」で女優デビュー。おもな代表作にミュージカル「ラマンチャの男」(15)、「ウエスト・サイド・ストーリー」Season2(20)、「WAITRESS ウェイトレス」(21)など。ほか、連続テレビ小説「おちょやん」(20)などに出演。現在、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演中。
禁断の愛のミュージカルに酔いしれる!『ウエスト・サイド・ストーリー』特集【PR】