宮澤エマがひも解くスピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』「過去と現在、未来を地続きにする、巧みな演出に唸らずにはいられない」
「互いの守りたい未来が変わってしまったということがより強調された」
61年版との違いは、音楽面でもたくさんあったという。「どこから触れていいか、とにかくすべてがすばらしい!」と大絶賛の宮澤は、劇中で一番せつない曲に、トニーと現ジェッツのリーダーを務めるリフが歌う「クール」を挙げる。
「61年版では、ジェッツのメンバーによる、すごくかっこいいダンスナンバーとして登場します。もちろん、今回もすごくかっこいいのですが、立場や考え方も異なるトニーとリフが歌うことにより、恋にのぼせ上がるトニーに対しての“落ち着け”と、シャークスとの決闘を前に高ぶるリフに対しての“落ち着け”の、ダブルミーニングになっているように感じました。この2人の間に距離感が生まれてしまい、互いの守りたい未来が変わってしまったということが本作ではより強調された気がしました」と思い出すだけで泣きそうだとしみじみ。
61年版のラストは、マリアが「サムウェア」を歌い上げるが、今回は出会ったばかりの2人がマリアの暮らすアパートのバルコニーで愛をささやき合うシーンでも歌われる「トゥナイト」に変更されている。「“トニーのことしか見えない”というセリフから始まり、2人のことしか見えなかったからこそ尊くて、すごく象徴的でかなり泣かされました」と振り返る。
そして、宮澤自身が「いっきに引き込まれた」と語る、スラム街のあちこちからジェッツのメンバーが集まり、街を闊歩しながら踊るプロローグのシーンについては、「ミュージカルならではと言いますか、ギャングが急に踊りだす描写は、普通ならすごくギャップを感じそうじゃないですか?でも、そう思わせない絶妙な塩梅のカッコよさとノリのよさがあり、このオープニングがあるからこそ、その後の展開にもガッと心をわしづかみされるのだと思います」。
「一人の人間として、女性として、そこにちゃんと存在しているのがスピルバーグ版のマリアの尊さ」
トニー役のアンセル・エルゴートについては、「エルゴートは、ミュージカルの人じゃないからこその素朴さ、少年らしさが歌声に出ていると思いました。マリアに出会い、ひと目惚れをしてのぼせちゃっている彼が、マンハッタンの街を歩きながら『マリア』と叫ぶ感じ。冷静に考えたら近所迷惑だけど(笑)、それがすごくナチュラルでかわいくて。人生の分岐点に立ちながら少年というアンバランスも残す難しい役のはずなのですが、その危うさをうまく表現し、魅力的に演じていたと思います」と微笑む。
マリアを演じるレイチェル・ゼグラーは、約3万人のオーディションを勝ち抜いた期待の新星。ゼグラーについては、「圧倒的歌唱力が持つ説得力には脱帽です。そして、トニーが惹かれるのも無理はないと納得させる目の輝き。ピュアでいて、ポジティブさも併せ持ち、つらいことがあってもこの世は希望に満ちていると捉えて強く生きている様子が伝わってきます。キラキラしたお姫様としてではなく、一人の人間として、女性として、そこにちゃんと存在しているのがスピルバーグ版のマリアの尊さになっています」とあふれる熱い想いを語ってくれた。
東京都出身。2013年にミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング 〜それでも僕らは前へ進む〜」で女優デビュー。おもな代表作にミュージカル「ラマンチャの男」(15)、「ウエスト・サイド・ストーリー」Season2(20)、「WAITRESS ウェイトレス」(21)など。ほか、連続テレビ小説「おちょやん」(20)などに出演。現在、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演中。
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