上橋菜穂子原作のファンタジー大作『鹿の王』、スピルバーグが新たに描く『ウエスト・サイド・ストーリー』など週末観るならこの3本!

コラム

上橋菜穂子原作のファンタジー大作『鹿の王』、スピルバーグが新たに描く『ウエスト・サイド・ストーリー』など週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、上橋菜穂子原作の、謎の伝染病に侵された世界で生きる父娘の姿を描いたファンタジー、不朽の名作を巨匠の手でアップデートさせたミュージカル、ジャンフランコ・ロージのメガホンで戦争地域で暮らす人々を映しだしたドキュメンタリーの、考えさせられる3本!

人としてこうありたいという部分を含め心に刺さる…『鹿の王 ユナと約束の旅』(公開中)

【写真を見る】伝染病ミッツァルから生き延びた戦士ヴァンは、身寄りのない少女ユナと出会う(『鹿の王 ユナと約束の旅』)
【写真を見る】伝染病ミッツァルから生き延びた戦士ヴァンは、身寄りのない少女ユナと出会う(『鹿の王 ユナと約束の旅』)[c]2021「鹿の王」製作委員会

「精霊の守り人」など数々のベストセラーを生みだしたファンタジー作家、上橋菜穂子の代表作を映画化。謎の伝染病ミッツァルが猛威を振るうなか、偶然その抗体を持った戦士ヴァン。身寄りのない少女ユナと旅に出た彼は、病に挑む医師ホッサルと出会う。物語の根底にあるのは、武力を背景に併合した二国間の軋轢。ミッツァルの特効薬をめぐる両陣営の思惑に、血縁のない父娘と若き医師が巻き込まれる。ファンタジー大作といえば激しいバトルやアクションが付きものだが、本作はスペクタクルを盛りこみながらも戦闘以外の方法で大切なものを守ろうとする男たちのドラマを展開。生かされた命をどう使うのか、迷いなく突き進む彼らの潔さが気持ちいい。そんな清々しい物語を、作画監督として宮崎駿や新海誠を支えてきた安藤雅司監督が丁寧な描写で紡いでいく。堤真一、竹内涼真、杏らボイスキャストも驚くほどのハマりぶり。パンデミックがリアルな現実となったいま、人としてこうありたいという部分を含め心に刺さる作品となった。(映画ライター・神武団四郎)

名作中の名作を、スピルバーグ監督が再生する…『ウエスト・サイド・ストーリー』(公開中)

異なる境遇に生まれながらも、惹かれあった男女の切ない愛の行方を映しだす『ウエスト・サイド・ストーリー』
異なる境遇に生まれながらも、惹かれあった男女の切ない愛の行方を映しだす『ウエスト・サイド・ストーリー』[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ミュージカルというジャンルだけでなく、映画の歴史を振り返っても名作中の名作。それを60年を経てスティーブン・スピルバーグ監督が再生する。オリジナルの魅力と精神をストレートに受け継ぎつつ、巨匠らしい堂々たる演出、ポイントを見極めた新解釈で応えた力作となった。1950年代、再開発が進むニューヨークを舞台に、人種を巡る若者たちの抗争に、切実なラブストーリーが絡んでいく。名曲の数々はそのまま使用し、ドラマに合わせて曲順をわずかに調整。「トゥナイト」、「アメリカ」など、いま改めて聴いても感情を揺さぶり、テンションを上げる効果は絶大だ。そして1961年の映画で革新をもたらしたダンスは、ダイナミックかつエネルギッシュにアップデートされ、ミュージカルの醍醐味を満喫させる。決闘のシーン、主人公マリアとトニーの短いデート、サブキャラの役割などは、現代の映画らしくリアリティも重視されており、「映画の遺産」がどのように変化し、新たな観客を惹きつけるのか。そして60年を経て、我々の社会はどう変化したのか。それらを確認する意味でも必見である。(映画ライター・斉藤博昭)


どう撮り得たのかと思わずにいられない映像が連続…『国境の夜想曲』(公開中)

9.11により分断された世界で、暗闇から光を求める人々の営みを映す『国境の夜想曲』
9.11により分断された世界で、暗闇から光を求める人々の営みを映す『国境の夜想曲』[c]21 UNO FILM / STEMAL ENTERTAINMENT / LES FILMS D’ICI / ARTE FRANCE CINÉMA / Notturno NATION FILMS GмвH / MIZZI STOCK ENTERTAINMENT GвR

『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』(13)、『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(16)などドキュメンタリー映画の名匠、ジャンフランコ・ロージによる新作。ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門で、ユニセフ賞など3冠に輝いた。
イラク、シリア、レバノン、クルディスタンなど紛争状態の国境付近を、ロージ自ら3年以上も一人で旅し、カメラに収めていったという。インタビューやナレーション、追うようにカメラが介入することもなく、その地で生きる人々の姿を映す。燃えるように赤い空に遠く銃声を聞きながら漁のため川面を滑りだすボート、早朝に見知らぬ男と交渉して狩りを手伝い小銭を稼ぐ少年、ISISに囚われたトラウマに震える子供たち、空の牢獄で息子を偲んで慟哭し哀悼歌を歌う母親たち…。どう撮り得たのか、と思わずにいられない映像が連続する。なんと世界は美しいのに、なんと残酷なのか。それでも黙々と生き抜く人間の営みに、言い表せない感情がぶくぶく沸く。「ドキュメンタリーは答えを与えてはいけない」という監督の言葉に励まされ、読み解こうとせず、ただ観る。個々人が感じたことこそ、正解なのだろう。(映画ライター・折田千鶴子)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!

構成/サンクレイオ翼

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