デビュー作で1人2役に挑戦!初主演作に見る、俳優・Koki,のポテンシャルは?
目や唇の動きにも注目!集中力が活きる演技
では実際、本編ではどうだったのか。本作はホラー映画という性質上ネタバレが多いので、細かい描写を回避しながら、劇中のKoki,の演技をいくつか紹介していこう。まずは導入部の、道端で1人座っている奏音の背後から蓮がそっと近づき、おどろかそうとするが、彼が「うわっ」と叫ぶ寸前に振り返り、逆に蓮をビックリさせるシーン。ここでは彼女の反応の速さと瞬発力を確認することができるだけでなく、クールな発声と蓮への雑な扱いで2人の関係性や距離感を観る者に伝えている。蓮がほかのことに気をとられている間にパッと逃げてしまうところも含め、芯の強いキャラクター像を体現した鮮やかな登場シーンとなった。
蓮のスマホに映る心霊動画のなかに自分とそっくりの女子高生を見つけ、激しく動揺する時の表情にも注目。自分に似た彼女はいったい誰なのか?そこから失われた記憶をたどっていく際の内面の変化を表情の変化だけで訴え、観る者を引き込んでいく。このシーンについては、「清水監督のアドバイスを受け、緊張感が途切れないように、ほんの小さな目の動きや唇の動きも気をつけながら演じました」と前述の完成報告会見で振り返っていた。
全力でぶつかる姿勢が、役柄とシンクロ
そんな持ち前の反応の良さは、ホラー映画ならではの恐怖シーンでも遺憾なく発揮されている。奏音の周りに事あるごとに現れる謎の女性の影にハッとしたり、ビクッとする、簡単そうに見えて意外に難しいリアクションの芝居を生っぽいものに。鏡に映る自分に違和感を覚え、前のめりになるところからのショックシーンも、実際は1人芝居なのにもかかわらず、そこで起きている不可解な現象に説得力を持たせていた。特に、絶叫する際の声の響きは見事!役に全力でぶつかるKoki,の必死の表情と抜群の身体能力が、ボロボロになりながらも真実を突き止めようとする奏音とシンクロしていくことで、スクリーンの彼女から目が離せなくなってしまった。
性格の異なる双子の姉妹という難役
そんなKoki,の演技のなかでも、一番の見どころは双子の奏音と詩音を演じ分けられているのか、だろう。報告会見では、初めての芝居で2役を演じた今回の挑戦についても振り返り、「奏音と詩音の違いではなく、それぞれの特徴をしっかり考えて意識しました」と言及。完成した映画を観れば、ハードルの高い挑戦をまんまとクリアしたことがわかるはずだ。
奏音が最恐の心霊スポットで再会する双子の妹・詩音は、見た目は奏音と同じなのに、印象がまるで違う。物腰が柔らかく脅えた表情の弱々しい彼女は、自分の力で生きていけそうな奏音とは別の人格であることが瞬時にわかる。海の上に映る詩音の幻影と彼女を見る奏音、(合成を駆使した)2人が対峙するシーンなどで、そのことを強く感じるだろう。
「演じることがこんなに楽しいんだ。こんなにも夢中になって、好きになるものなんだと気づかせてくれました」とも笑顔で語っていた彼女。どうやら映画を作るおもしろさ、役になりきる醍醐味を初主演作で早くも知ってしまったようだ。女優として充実の一歩目を踏みだしたKoki,は、この先どこへ向かうのか?『牛首村』の熱演を観れば、彼女の未来が自然と気になってくるはずだ。
文/イソガイマサト
※Koki,の「o」はマクロン付きの「o」が正式表記