“異色”に見えて実は共感度抜群な人間ドラマがある…ラブストーリー『恋する寄生虫』を考察する
互いの持ち味を引きだし合った林遣都&小松菜奈
他人に恐怖を感じる男と、そのテリトリーに遠慮なくずかずかと踏み込んでくる女の子。最悪の出会いから始まった関係は、反発しながらもお互いのことが気になって仕方がない。寄生虫のことがなければ、少女漫画のラブコメかと思うほどお似合いの2人である。
そして、このカップルを演じる林と小松がなんとも愛おしい。映画公開時、小松が「25歳で現役高校生役は正直キツい」と舞台挨拶でコメントしてニュースになったが、不安定な心の佐薙を演じる彼女は10代そのもの。年下の佐薙に振り回され、ペースを狂わされていく高坂役の林が見せた演技もまた、時にコミカルで時にせつなくて、実に見事な塩梅である。緻密な計算のうえに演技を積み上げていく林は、これまでラブストーリーというよりヒューマンドラマの印象が強かったが、心の動きを大切に演技する、自分とは違ったスタイルを持つひらめき派の小松と息が合ったのだろう。初共演とは思えぬアンサンブルで、それぞれの持ち味がよりよく引きだされている。
そんな撮影の模様はBlu-ray&DVDの特典映像にたっぷりと収録されている。メイキングには林、小松はもちろん、井浦新、石橋凌という物語に大きく関わっていく男性をそれぞれ演じた2人によるコメントのほか、撮影時の様子などが収められている。本編でも印象的なシーンの一つである、林と小松が真冬の湖に飛び込み、命懸けで見せるラブシーンはとてつもない迫力で何度観ても圧巻だ。
また、同じくメイキングに登場する監督の柿本ケンサクは、CMやミュージックビデオを中心に活躍を広げるクリエイター。人の接触に耐えきれない高坂が嘔吐の波に押し流される場面や佐薙が感じる人の視線の不気味さなど、冒頭に描かれる2人の嫌悪、恐怖がユニークかつ明確。ところどころ差し込まれる寄生虫のCGも2人が浸食されていく様子が想像しやすく、ちょっと不思議なラブストーリーをよりいっそう盛り上げている。
困難を克服しようとする成長物語としても共感必至!
誰もがなにかしらの悩みを抱えて息苦しさを感じる現代社会。佐薙のように「自分が死んだ時に悲しんでくれる人はいるのだろうか」と、ふいに孤独感に押しつぶされそうになることもあるだろう。他人とかかわることが苦手だった高坂と佐薙が、苦しみながらも「“普通”になりたい」とデートを重ねていく様子は微笑ましいラブストーリーであると同時に、困難を克服しようとする一人の人間の成長物語として捉えることができる。「“虫”のせいで恋に落ちる」というファンタジーの世界においても説得力のあるリアルな感情が落とし込まれている。だからこそ、2人の恋を応援したくなり、また彼らの姿から「もがいてみてもいいじゃないか」と勇気をもらえるのだ。
おまけに当初は「異常な潔癖症」という設定だったであろう高坂の生活も、コロナ禍のいまとなっては誰もが共感せずにはいられない。外出時には常にマスク。人には接触しないよう距離を取る。誰かが触れたものには即消毒。帰ったらシャワー。肌が荒れるほどの手洗い。他人事だったはずの高坂の一挙一動に自分たちが重なってしまう。誰かに会いたくても会えない、触れたくても触れられない。見えないからこそ恐ろしいウイルスに怯える日々。普通の生活に憧れる高坂と佐薙。2人は特殊な存在にも思えるが、それは私たちが一刻も早く、日常を取り返したいと願う気持ちと変わらない。
ちなみに、デートシーンで印象的に登場するのがヴィーナスフォートととしまえん。としまえんは一昨年閉園。ヴィーナスフォートも今年3月いっぱいで閉館する。そう思って観ると、夢のような時間の儚さを実感せずにはいれない。
生まれてきていいことなんてなかった人生が、思いがけない出会いによって突如輝きだす…。はたして、この思い出を手放してなお、この先、生きていけるのか。世界を拒絶し、世界から拒絶された一組の男女の、運命ではなかった恋の行方を、Blu-ray&DVDで見届けてほしい。
文/高山亜紀
発売中
価格:7,480円(税込)、4,180円(税込)
発売元・販売元:バップ
いまを生きる私たちに一歩踏み出す勇気をくれる『恋する寄生虫』特集【PR】