阿部寛が北村匠海の才能を絶賛!「匠海くんは、俺がわかりづらいことを言ったら、すぐに理解してフォローしてくれる」
「匠海くんと一緒にいると、“本当にとんびが鷹を生んだな”と強く実感できる」(阿部)
――実際に現場で、お互いを父として、息子として、愛おしくてたまらなくなったというような、感情を強く揺さぶられたシーンを教えてください。
阿部「アキラに勉強部屋で、『オヤジだって!』と強く怒られるシーンです。反抗期でもありましたが、息子にガツンと言われた時のショックは、目が覚めるような出来事でしたね。それまではあまり踏み込まず、上から目線で接していたけれど、アキラもずっと父親のことを見ていてくれて、真っ向から親に向かって意見を言ってきます。アキラの成長を目の当たりに感じ、そこでヤスも成長しなくてはならなかったし、とても明確に覚えているシーンです。演じていて、本当に寂しくて、悲しくてね(笑)」
北村「思春期から演じ始めた僕にとっては、思い出深いシーンばかりですが、結婚したいと由美(杏)を連れて帰った時に、照雲さん(安田顕)がひと芝居売ってくれて、その照雲さんにヤスが怒るシーンは、本当に泣けました。ぶっきら棒に飲んでいるだけかと思ったら、アキラのことも、アキラが連れてきた由美に対してもすごく考えていたという。ヤスの愛をすごく感じて、現場でもそうでしたが、完成した映画を改めて観た時もとてもよくて泣けました」
――そんな父と息子を演じて、俳優としてお互いのどんなところが印象に残っていますか?
阿部「匠海くんは、すごく穏やか、でもとても力強い。人に興味を持っていて、人をよく見ているし、話を深く聞いていて、そのうえ、しっかりとした自分の意見を持っている。お芝居における瞬発力もすごくあるんです。特に今回はアキラ役の思春期から途中参加なので難しかったと思いますが、真摯にアキラとして参加してくれて。彼の一生懸命さがキャラクターに重なってきて、一緒にいると、“本当にとんびが鷹を生んだな”と強く実感できました」
北村「現場での阿部さんは、ヤスでしかないというか、全身ヤスでしたね。もともと阿部さんと共演できるということも僕のなかで本作に参加する大きな一つの理由でした。懐が深く、人としての器がすごく大きくて。お芝居においても受け皿が本当に大きいんです。どんなボールを投げても絶対にキャッチしてくれるし、ヤスとして剛速球で返してくれるんです。セリフだけじゃなく、ちゃんと目でも会話してくれるし、僕はただ阿部さんの胸を借りて乗り切った感じです。また阿部さんとのキャッチボールを通して、阿部さんが現場に、キャストスタッフみんなに、愛と信頼を持っているのが、すごく伝わってきました」
阿部「ほら、インタビューでも自分の言葉を紡ぎだしていくのがとても上手だし、匠海くんはすごく思考的な人なんですよね。非常に冷静に判断し、俺がわかりづらいことを言ったら、すぐに理解してフォローしてくれて (笑)。そういうことがアキラの演技にもとても生きているし、演技以外にもいろいろとこなしている才能につながっているなと思いますね」
北村「阿部さんの姿でとても印象に残っているのが、お子さんの話をされている姿なんです。本当に阿部さんってチャーミングだなぁと感じていました」
――自分の親の存在についても、この映画はいろいろと考えさせられますよね。
阿部「うちの親父は寡黙で頑固。しゃべっているところをあまり見たことがないくらいだったんです。そんな親父が怪我をして入院したことがあって、当時中2の俺は急に勉強しなくなっちゃうし、母は半年間毎日病院に通って父を支えていました。それでつい母に、『よくそんなに毎日お父さんのところに通えるね』と言ったら、『愛してるから』って答えてくれたんですよ。テレビや映画で『愛してる』なんていうのを見ていたけれど、両親はいわゆるそういう“愛し合っている”風には見えなかったので、それが結構いい意味でショックで(笑)。これが本当に愛するということなのか、やたら“愛する”なんて使っちゃいけないな、と思って。あれは、家族に対する印象が大きく変わった事件でしたね」
北村「うちの父もわりと頑固なんです。寡黙というより、静かなタイプで。そんな父が一度、青たんを作って帰ってきたことがあって。僕は2段ベッドで隣の話を聞いていたのですが、どうやら友人と喧嘩をして絶縁したらしくて(笑)。いまは人々が優しくなったのか、青たん作るような人をあまり見かけませんが、振り返ってみると、子どもながらそんな父のことが、ちょっと愛しく見えていたことを思い出します」
阿部「親父たちの話は余談のようで匠海くんとの共演は、僕のヤスを一人前にしてくれた、そんな感謝の気持ちがある」