白石和彌監督が明かす、阿部サダヲの“底知れない魅力”「阿部さんの目がずっと忘れられなかった」
白石和彌監督最新作『死刑にいたる病』(公開中)で、日本犯罪史上類を見ない数の若者を殺した連続殺人鬼役に抜てきされた阿部サダヲ。空っぽな目と優しい笑顔を浮かべた凶悪な男を説得力と共に演じて、観客を大いに震え上がらせる。白石監督は「阿部さんのお芝居への信頼感は、圧倒的」、一方の阿部も「白石監督の現場はとにかく楽しい!」と相思相愛の想いを吐露。本作で果たしたチャレンジや、阿部とW主演を務めた岡田健史の役者力についてもたっぷりと語り合った。
「阿部さんには、底が知れない感じがある」(白石監督)
ミステリー作家、櫛木理宇の同名小説を、『凶悪』(13)や『孤狼の血』(18)の白石監督が映画化した本作。大学生の雅也(岡田)のもとに、世間を震撼させた稀代の連続殺人鬼である榛村(阿部)から「最後の事件は冤罪だ。犯人がほかにいることを証明してほしい」という手紙が届く。願いを聞き入れた雅也が事件を独自に調べていくなかで描かれる、榛村と雅也のスリリングな心理戦が大きな見どころだ。
――『彼女がその名を知らない鳥たち』では阿部さんが、蒼井優さん演じる女性に異様な執着を見せる不潔な男、陣治を演じていました。陣治も観客にとって大変忘れ難いキャラクターですが、阿部さんとの再タッグとなる本作で連続殺人鬼役をお願いしたいと思った理由から教えてください。
白石「『彼女がその名を知らない鳥たち』で、蒼井さん演じる十和子と陣治が一緒に電車に乗っているシーンがありました。そこで陣治がイケメンの男性をバーンと突き飛ばすんですね。そこで僕は『5分前に人を殺してきたような目をしてもらっていいですか?』と阿部さんに言ったんです。その時の目が印象的で、ずっと忘れられなかったんです。『死刑にいたる病』の原作を読んで榛村大和というキャラクターに出会った時に、『あの阿部さんをもう一度見たい』と感じました。それに阿部さんって、なにを考えているかよくわからないところがあって。掴みどころがないというか、一緒に飲みに行ってケタケタ笑いながら話していても、帰りの電車のなかで『阿部さん、心から笑っていたのかなあ』と思ってしまったり(笑)」
阿部「あはは!その話、いいですね(笑)」
白石「なんだか底が知れない感じがある。そこは本作の榛村大和とも少し通じるんじゃないかなと思いました。また榛村の“みんながなぜか好きになってしまう”という点も、阿部さんがデフォルトとしてお持ちのものですしね」
――阿部さんは、連続殺人鬼役で白石監督からお声がかかった時の感想はいかがでしたでしょうか。
阿部「連続殺人鬼役ということには驚きがありましたが、まず率直に、白石監督とまたお仕事できることがとてもうれしかったですね。白石監督の現場はとにかく楽しいんです。監督自身が楽しんで現場を作っているというのがわかるので、ものすごく居心地がいい。白石監督って、ひどいシーンになればなるほど、笑っていたりして (笑)。そういう監督について行ったら、絶対におもしろいことになりますからね。『この方についていきたいな』といつも思わせてくれます。連続殺人鬼である榛村は、もちろんまったく共感ができない役柄ですが、こういうキャラクターって役者としてはいろいろとやり方があるような気がしていて。ぜひ演じてみたいなと思いました」
白石「当然、榛村は共感のできないキャラクターですが、僕は彼にとても興味があって。実は僕、『凶悪』という映画を撮ったあとに、“僕も人を殺している、死体を山に埋めている”という妄想に囚われてしまった時期があったんです。もちろん殺していないんですけれど(笑)」
阿部「ええ!怖いですね」
白石「『あの死体が出てきたら、俺、終わるな』と思ったり、寝ていてもその妄想が襲ってきて、ガバッと起きたりして(笑)。ものすごく怖かったです。もう脱却することができましたが、そういった経験もあって、榛村の心理にもとても興味が沸いたんです。役者さんでも残虐なシーンなどを撮影すると、精神的に削られる場合もありますよね。『孤狼の血 LEVEL2』では鈴木亮平さん演じる上林が、“相手の目をつぶす”という行為に及ぶんですが、その日の撮影の帰り、鈴木さんは『ぐるぐると同じところを歩いてしまって、ホテルまでうまく帰れなかった』とおっしゃっていました。とはいえ、阿部さんには精神的にやられた形跡はなかったですね!」
阿部「そうですね、爆睡できました(笑)!」