白石和彌監督が明かす、阿部サダヲの“底知れない魅力”「阿部さんの目がずっと忘れられなかった」
「岡田健史くんはものすごく真っ直ぐな人」(白石&阿部)
――雅也役を岡田健史さんが演じました。岡田さんからにじみ出るピュアさが、役柄とものすごく重なっていたように感じました。
白石「そうなんですよ。想像を遥かに超えた純真さと、曲がったことが嫌いだという頑固さを持った方です。あそこまで真っ直ぐな方は、なかなか出会えないのではないでしょうか。ものすごく真面目ですし、今回もいろいろな話し合いをしながら、雅也を作りあげていきました。岡田くんって、角度や照明の当たり具合などによって、全然違う顔に見える時があって。『こんな顔をしていたんだ』という発見が毎回あるんです。例えば雅也がランニング姿で焼きそばを食べるシーンがあるんですが、あそこなんてブルース・リーにしか見えなかったですから(笑)!幼い顔になったり、急に大人びて見えたり、ものすごくいい表情をするなと思って見ていました」
阿部「違ったような顔に見えるというのは、ものすごくわかりますね。両方の目の大きさが違うように見える瞬間もあって、ものすごく不思議な魅力があるなと思いました。僕は学生時代に野球部に入っていたんですが、岡田くんも有名な強豪校の野球部でキャッチャーだったんですよね。岡田くんのなかで、カーブや変化球ってアリなのかなと思いました。ストレートしか投げさせてくれないんじゃないかなって(笑)!そう思うくらい、真っ直ぐな方です。岡田くんとはひたすら、面会室で対峙する場面を撮っていましたが、熱いお芝居の連続でしたね」
――白石監督は『凶悪』や「孤狼の血」シリーズなど、パワフルな作品を生みだし続けています。白石監督が「映画にしてみたい」と心を動かされる原作とはどのようなものなのでしょうか。
白石「僕自身の倫理観をはみ出すような物語ですね。倫理観から外れた人、倫理観から外れた感情。そういったものにえも言われぬ感動を味わい、『こんなことがあるのか?』と感じたことを起点にいろいろなことを考えていきたくなります。『死刑にいたる病』はとにかく原作がおもしろくて。櫛木(理宇)先生は作家デビューされる前に、世界中のシリアルキラーを集めたサイトを作っていたそうで。作家デビューしてから、その想いを初めて描くことができたのが本書だそうです。そのエネルギーが伝播して、映画にも力を与えてくださっているなと思っています」
――面会室のシーン含め、映画的なギミックや演出も見どころです。新たなチャレンジが詰まった作品になりましたか?
白石「面会室のシーンの撮影は、本当に大変でした。阿部さんと岡田さんのお芝居の力をもちろん信じていますが、それでも画としてはただ2人が座っているだけの場面になりますから、どれだけ感情の起伏を映しだすことができるのだろうかと不安になることもありました。榛村が面会室の壁を越えてきてしまってもいいんじゃないかと思ったり、いろいろなチャレンジをしてみました。そういった一つ一つのギミックが自分としてもとてもおもしろかったですし、チャレンジしたからこそダイナミックなシーンを撮ることができたなと感じています」
阿部「僕としては、連続殺人鬼という役はなかなかいただける役ではないですから。間違いなくチャレンジだったと思います。あと、監督からの指示で歯をホワイトニングしたんです。あそこまで歯を白くしたのは初めてです(笑)」
白石「ビッグボス(日本ハムの新庄剛志監督)みたいにね!ピカピカの歯にしてほしいって(笑)」
阿部「そうやっていろいろと楽しいことが起きるので、白石監督とはまたぜひご一緒させていただきたいです」
取材・文/成田おり枝