白石和彌監督が明かす、阿部サダヲの“底知れない魅力”「阿部さんの目がずっと忘れられなかった」
「お芝居をやっている時がとにかく楽しい」(阿部)
――榛村が、どんどん雅也の心をつかんでいく過程がとても恐ろしかったです。阿部さんは榛村を演じるうえで、どのようなことを大切にされていたのでしょうか。
阿部「連続殺人鬼について、僕自身もよくわからないのでいろいろと調べたのですが、だんだん怖くなってしまって(笑)。罪を犯した人の生い立ちや心理はとても気になるものですが、原作を読むと、それがとてもうまく描かれているなと思いました。榛村は、岡田くん演じる雅也を動かしているという立場なので、芝居をする意識をしたり、“こうした方がいい”と考えるよりかは、雅也をよく見るようにしていました。雅也の目を見ているととても彼の純粋さが伝わってくるし、『榛村のことを信じてくれているな、榛村が望むようにちゃんと外で仕事をしてきてくれているな』ということがわかるんです」
――白石監督は、今回改めて阿部さんのすごさを感じたような場面はありましたでしょうか。
白石「脚本の時点で、『これは成立するのかな』と心配していたようなシーンでも、阿部さんは普通に成立させてしまうんです。例えば、榛村がターゲットの高校生に話しかけるタイミングを作るために、駐輪場で自分の自転車と間違えたふりをして、彼の自転車を持って行こうとするシーンがあります。それをきっかけに友達になろうとするなんて、絶対にありえないだろう…という気がしていました。現場でお芝居をやっていただいて、やっぱり成立しないとなったら、ほかの手段を考えようと思っていたんですが、阿部さんが演じてみたら妙な納得感があった(笑)。阿部さんのお芝居への信頼感というのは、圧倒的なんです。どんな役でもしっかりと自分のものにしてくれる。芝居で困っている阿部さんって、僕は見たことがないですから」
阿部「そんなふうに言っていただけて、うれしいですね。僕はとにかくお芝居をやっているのが楽しいので、すべてが苦ではないし、どんな役であれストレスが溜まらないんですよ。白石監督の現場は、とにかくアイデアがどんどん出てくるのが楽しいですね。『このシーンはこうやって撮るんだ』など、俳優としてはまったく考えつかないような発想が出てくる。陣治を演じた時も、“『決闘高田の馬場』のような走り方で”と言われたりして、もうなんのことだかよくわからないのだけど、そういったことすべてがおもしろい(笑)。どこに連れて行かれるのかわからないような、おもしろさがあります。僕は昔からそういう感じで、劇団で松尾スズキさんからなにか演出を受けたとしても、よくわからないことを必死にやっているのが楽しくて。すべてを理解しないで芝居をするという状態が、一番いいのかなという気もしています」