日本人がおおいに躍進!パンデミックから完全復活した、第75回カンヌ国際映画祭の総評
3年ぶりに5月の南仏で行われた第75回カンヌ国際映画祭は、パンデミックからの完全復活を祝うような映画の祭典だった。最初の週末には『トップガン マーヴェリック』(公開中)と共にトム・クルーズがカンヌに降り立ち、後半にはバズ・ラーマン監督によるエルヴィス・プレスリーの伝記映画『エルヴィス』(7月1日公開)のワールドプレミアが行われた。どちらの作品も超満員のプレミア上映と、盛大なアフターパーティが行われ、劇場で映画を観る楽しみと、映画を観たあとに人々と語らう喜びが戻ってきたようだった。授賞式後の審査員団記者会見でも、審査員を務めたジェフ・ニコルズが「帰宅したら、脚本執筆に磨きをかけなくては、と思います。グループで映画を観る経験は、私をよい方向に導いてくれました」と述べ、ヨアキム・トリアーは「私もジェフ同様、自分の作品を見直さなければならないと思いました。映画に囲まれた休日は、映画が“生き物”であることを教えてくれました」と語っている。
是枝裕和監督、早川千絵監督が受賞!躍動した日本人監督たち
日本メディアでも大きく報道されたように、今年も日本映画界から受賞者が登場した。まず、コンペティション部門に出品された是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』(6月24日公開)に主演したソン・ガンホが、韓国人俳優として初めて男優賞を受賞。受賞者会見でソン・ガンホは、「今作は異例のプロジェクトでした。だからこそ、自分の演技を再び研磨する時だと考えました。是枝監督の作品は家族、特に擬似家族や普通でない家族を描いていると思われていますが、家族の形が大切なのではなく、人生において大切なこと、そして失われてしまったものを描いているのだと思います。そして、そういった感情が人生を美しいものにしています」と受賞における想いを語っていた。『ベイビー・ブローカー』は、昨年濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(公開中)が受賞した「エキュメニカル審査員賞」(キリスト教関連団体が「人間の内面を豊かに描いた作品」に授ける独立賞)も受賞している。
また、ある視点部門の『PLAN 75』(6月17日公開)の早川千絵監督が、カンヌ国際映画祭全部門の初監督作品から選ばれる、カメラドールの特別表彰を受けた。奇しくも『PLAN 75』は、是枝監督が総監督を務めた短編映画集『十年 Ten Years Japan』(18)に納められている同名短編映画をもとに長編映画として作られたもの。授賞式の前に顔を合わせた是枝監督は、「長編デビュー作品でカンヌ映画祭に招待され、本当にすばらしいスタートですね」と早川監督にお祝いの言葉を贈ったという。
授賞式後の日本媒体向け会見で是枝監督は、「早川監督は学生部門(シネフォンダシオン)でカンヌに来て、長編デビューで受賞、このあとはコンペティション部門が待っていることでしょう。去年は濱口竜介監督が(脚本賞を)獲って、今年は早川さんが続いていくというのは、日本映画にとって、とてもいい流れだと思います」と述べていた。『ベイビー・ブローカー』は韓国のCJ ENMの出資と製作、『PLAN 75』は日本、フランス、フィリピン、カタールの出資によって作られた共同製作作品。並行して行われたACID部門(インディペンデント映画普及協会が作品を選定)に出品された山﨑樹一郎監督の『やまぶき』(22年秋日本公開予定)も、フランスとの共同製作で、撮影地は韓国で、韓国人俳優カン・ユンスが主演。アニメーション部分や音楽、編集にフランスのスタッフが参加した国際的な作品だった。日本国内の市場や資本だけでなく、広く海外に目を向けた作品は今後増えていくだろう。