フランソワ・トリュフォー「ドワネルの冒険」から探る、“愛のシネアスト”の魅力
「アントワーヌ・ドワネルの冒険」という映画を超えた体験
14歳の少年ドワネルが、家族との不和や馴染めない学校という枷に抗う姿を描く、トリュフォーの半自伝的作品『大人は判ってくれない』。17歳になったドワネルが感化院を出て自活を始め、コンサート会場で出会ったコレットに一目惚れをするという初恋譚が描かれる短編『アントワーヌとコレット』(62)。
どちらも思春期特有のやり場のない感情を描くわけだが、その預け先がタイトルに示されるように大人へと向けられた前者に対し、後者ではコレットの両親という好意的で“判ってくれる”大人の登場によって(また、自身の精神的な未熟さを棚に上げて)異性との関わり合いの苦悩へと向けられていく。いずれも自分自身とは違う立場・境遇の他者を前に、自分の思うままに物事が運ばないことに歯がゆさを噛みしめるという、半世紀以上前のフランスの物語でありながらも、現代の日本の青少年たちの感情に限りなく近いものがある。
やがてそれが20代前半のドワネルを描く『夜霧の恋人たち』(68)では、大人や異性が“判ってくれない”のではなく、自分自身が自分自身を“判っていない”だけであると徐々に気付き、より複雑な内省がはじまっていく。ひょんなことから探偵の手伝いをし、依頼人の夫人に恋心を抱くも、その感情をうまく取り扱うことができず、ドワネルは自分の未熟さを痛感するのである。
4作目の『家庭』(70)では花に染色をするという不可思議で危なっかしい仕事をしながら、昔のガールフレンドだったクリスティーヌと結婚したドワネルの未熟さと無責任さがことさらに強調される。日本人女性と不倫をしながら、またクリスティーヌとの間に子どもが生まれ父親になっても不安定なまま。しかし自分の半生を綴ることでそこに彼自身が過去を省みる兆しが現れる。最終作の『逃げ去る恋』(79)で30代半ばのドワネルは、自伝小説を発表しクリスティーヌとは離婚。サビーヌという新しい恋人がいるが、彼女と喧嘩した直後に実らなかった初恋の相手コレットと再会する。
まるでドワネル自身があまりにだらしなかったこれまでの人生を省みるように、劇中には過去作の映像が次々とインサートされていく。ドワネル役のジャン=ピエール・レオーをはじめ、コレット役のマリー=フランス・ピジェら俳優たちが物語のなかと同じ時間軸のなかで成長していくその様は、映画を観ているのではなく、彼らの人生の要所要所を覗き見しているような気分になる。そしてそれは、それぞれの年齢で起こりうる人生の岐路との向き合い方を示してくれるのである。
6月24日(金)~7月14日(木) 東京・角川シネマ有楽町、名古屋・伏見ミリオン座
7月1日(金)~ 大阪テアトル梅田 ほか全国順次公開予定
URL:https://movies.kadokawa.co.jp/truffaut90/
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