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フランソワ・トリュフォー「ドワネルの冒険」から探る、“愛のシネアスト”の魅力

コラム

フランソワ・トリュフォー「ドワネルの冒険」から探る、“愛のシネアスト”の魅力

ユニークに軽やかに描かれる、“人間”という魅惑的な冒険

連作・シリーズものであれば否が応でも過去作を観ていなければという先入観にとらわれてしまうが、一つ一つの作品に異なるテーマが添えられている以上、それぞれが独立したものとして存在できる。もちろん5作すべて通しで観るに越したことはないのだが。そうした物語的な旨味に限らず、映画としての楽しさや軽やかさを高めてくれるのは、なんといっても登場人物たちの無軌道なまでの感情な揺らぎだ。

ドワネルが大人になるにつれ、その未熟さが笑いを生む要素に
ドワネルが大人になるにつれ、その未熟さが笑いを生む要素に[c]MK2

例えば『大人は判ってくれない』の中盤、家で失火を起こして父親に厳しく叱責されるドワネル。すると突然、母親がジャック・リヴェットの『パリはわれらのもの』(61)を観に行こうと提案する。次のシーンで映画館から出てきた親子3人は仲良く手を繋いではしゃぎ回りながら家に帰ってくる。『家庭』の終盤、不倫相手の日本人女性に嫌気が差し始めたドワネルは、デートの食事の合間に何度もクリスティーヌに電話をかけて愚痴をこぼし、結局クリスティーヌとの関係を修復する。人間の感情や自己の確立、他者との関係がいかに難しく、それでいていかに滑稽なものであるかを感じさせられる。

イザベル・アジャーニの鬼気迫る演技で話題を呼んだ『アデルの恋の物語』
イザベル・アジャーニの鬼気迫る演技で話題を呼んだ『アデルの恋の物語』[c]Bernard Prim

20年も同じ人物を見つめてきた作家とあって、ほかの作品においても登場人物の描き込みはずば抜けている。自由奔放なヒロインに振り回される二人の男を描く初期作の『突然炎のごとく』(62)、男たちをまんまと手玉にとる服役中の女性をベルナデット・ラフォンが演じた『私のように美しい娘』(72)やイザベル・アジャーニの演技に引き込まれる『アデルの恋の物語』(75)、晩年の『終電車』(80)と、トリュフォー映画の女性たちは常に男性から飼い慣らされることなく独立した存在としてあり続け、「ドワネルの冒険」で自省を込めて描かれた未熟な男性の姿と対照的になる。これもまた、長い歳月を経ても先進的なままであり続けるトリュフォー映画の特徴といえるのではないだろうか。


「生誕90周年上映 フランソワ・トリュフォーの冒険」は6月24日(金)より全国順次開催
「生誕90周年上映 フランソワ・トリュフォーの冒険」は6月24日(金)より全国順次開催

今回の特集上映では、「アントワーヌ・ドワネルの冒険」5作や前段で挙げた4作を含む、長編10作品と短編2作品の計12作品が上映される。また、Apple TVアプリの「MOVIE WALKER FAVORITE」チャンネルでは現在『大人は判ってくれない』と『柔らかい肌』(64)、『恋のエチュード』(71)が見放題配信中。さらに、今回上映される4Kデジタル・リマスター版作品などの追加も今後予定されているそうだ。

映画館のスクリーンでその魅惑的な冒険を味わったら今度は配信でも、その世界を噛み締めるように隅何度でも堪能してほしい。

文/久保田 和馬

■特集上映「生誕90周年上映 フランソワ・トリュフォーの冒険」
6月24日(金)~7月14日(木) 東京・角川シネマ有楽町、名古屋・伏見ミリオン座
7月1日(金)~ 大阪テアトル梅田 ほか全国順次公開予定
URL:https://movies.kadokawa.co.jp/truffaut90/

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