「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」が話題沸騰!パク・ウンビンの魅力と“ハンディキャップ”への深い理解がドラマの鍵

コラム

「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」が話題沸騰!パク・ウンビンの魅力と“ハンディキャップ”への深い理解がドラマの鍵

ウ・ヨンウの姿に気づかされる、この社会の不便さ

そして何よりも、彼女の行動や言動のひとつひとつを見ていると、私たちがいかに自閉症スペクトラム障害について知らないか、この社会がどれほどマジョリティを対象に作られているかに思い知る。たとえば第1話、初出勤したウ・ヨンウに立ちはだかった最初の困難は回転ドアだった。ドアに入るタイミングが計れないウ・ヨンウを不審そうに見つめて通り過ぎていく人々に、視聴者は自分自身の姿を見つけ、この社会にある不便さに気づかされる。

しかし「ウ・ヨンウ」は、こうしたテーマを堅苦しく語ることはしない。ウ・ヨンウの持つ自閉症スペクトラム障害は“個性”であるとし、ユニークさとともに描きながら理解を促している。多くの当事者が持つという物事への強いこだわりは、“変な行動”ではなく、人それぞれにあるルーティーンやトレードマークとしてウ・ヨンウのキャラクター設定になり、ドラマの中で成立している。冷蔵庫の中のペットボトルやデスクの書類をきちんと揃えることや、相手の言葉を反復する癖、過敏な聴覚を守るヘッドフォン、父の作る海苔巻き、そして大好きなクジラのアイテム。特に、実写映像やアニメーションなどバリエーション豊かな手法で登場するクジラの映像は、「ウ・ヨンウ」のもう一人の主人公と言ってもいいだろう。ラブラインを演じるジュノ(カン・テオ)にクジラの話をするシーンで画面に動き回るペーパークラフトのクジラは、ペーパーアーティストであるソヨンによるもので、手作りの温かみが2人の関係性を表しているようだ。ウ・ヨンウが問題解決の糸口をひらめいた時に背後に差しはさまれる、海面でジャンプするクジラの映像もユーモラスで、思わず笑みがこぼれる。

ウ・ヨンウの大好きなクジラを再現するCGも楽しみのひとつ
ウ・ヨンウの大好きなクジラを再現するCGも楽しみのひとつ[c]ENA

韓国におけるバラエティ豊かな“ハンディキャップ”の描き方

韓国では、多くのドラマや映画の中で障がいを持つ人物を描いてきた。とりわけ目につくのは、ウ・ヨンウ同様に特定の分野に高い才能を持つ自閉症スペクトラム障害、いわゆるサヴァン症候群の主人公だ。秀でたマラソンの才能を持つ主人公をチョ・スンウが演じた『マラソン』(05)や、チュウォンが天才的暗記力を誇る医師に扮した「グッド・ドクター」、最近では、パク・ジョンミンが優れたピアニストを演じた『それだけが、僕の世界』(18)などがある。実は「ウ・ヨンウ」の脚本を手がけたムン・ジウォンは、過去にもキム・ヒャンギが驚異的な数学の能力を持つ少女に扮した『無垢なる証人』(19)を担当しており、こうしたテーマにもともと意欲的だったことがうかがえる。

パク・ジョンミンがサヴァン症候群の天才ピアニストを演じた『それだけが僕の世界』
パク・ジョンミンがサヴァン症候群の天才ピアニストを演じた『それだけが僕の世界』[c]CJ Entertainment

近年では、天才的な頭脳を持つ人間に限らず、もっと現実に近いキャラクターも登場し始めた。「サイコだけど大丈夫」で自閉症スペクトラム障害と発達障害を持つムン・サンテを演じたオ・ジョンセは、その見事な演技で昨年の百想芸術大賞ドラマ部門助演男優賞を受賞した。さらに、「私たちのブルース」には実際にダウン症を持つ俳優で画家のチョン・ウネが出演。双子の妹を演じたハン・ジミンとの演技のアンサンブルも、多くの人々の記憶に残っている。

チョン・ウネの素顔を綴った映画『あなたの顔』を鑑賞したハン・ジミンとのツーショット
チョン・ウネの素顔を綴った映画『あなたの顔』を鑑賞したハン・ジミンとのツーショット画像はハン・ジミン (@roma.emo) 公式インスタグラムのスクリーンショット


「ウ・ヨンウ」には、韓国が“ハンディキャップ”についての優れた作品を生み出してきたからこそ到達した、解像度の高さがある。たとえば第3話では、実兄への傷害致死が疑われる依頼人として、自閉症スペクトラム障害を持つ男性ジョンフン(ムン・サンフン)が登場する。知的障がいもある彼は意思の疎通が難しく、当時の状況を聞き取ろうとするウ・ヨンウたちを戸惑わせる。さらにウ・ヨンウを見たジョンフンの両親は、同じ自閉症スペクトラム障害にもかかわらず自立しているヨンウの姿に、「なぜ私たちの息子とあなたは違うのか」とショックを隠せない。自閉症スペクトラム障害は、たしかにサヴァン症候群のように驚異的な能力が特性となる場合もあるが、知的障害やダウン症を併発しやすいという。しかし、ドラマはウ・ヨンウとジョンフンに優劣をつけることは決してしない。優生思想を掲げたナチスドイツの愚行を振り返るウ・ヨンウが「80年前、私とジョンフンは生きる価値のない人間だった。では今はどうなんだろうか」と独白するように、今でも社会の圧倒的多数は、2人に等しく偏見の眼差しを注ぐからだ。「ウ・ヨンウ」はこうしていくつもの障がいのグラデーションを描き、観る者は彼らに寄り添いたいという気持ちになる。

前科持ちの男ジョンドゥ(ソル・ギョング)と、脳性麻痺の女性コンジュ(ムン・ソリ)を主人公にしたイ・チャンドン監督の『オアシス』(02)には、障がいに対する不寛容や偏見がそこかしこに表れていた。食事に入ろうとしたレストランの店員はコンジュを見た途端にやんわりと入店を断り、家族でさえも二人を理解しようとしなかった。今から20年前に、すでにマジョリティが障がいを“異質な者”として排除しようする社会の病巣を描き出していたイ・チャンドン監督には、改めて敬服する。今、世界は変わったのだろうか?「ウ・ヨンウ」が紡いでくれる物語は、きっとより良い未来をくれると信じている。

文/荒井 南

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