“指輪”の誕生にヌーメノールの繁栄と崩壊…サウロンの動向で予想する「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」の展望

コラム

“指輪”の誕生にヌーメノールの繁栄と崩壊…サウロンの動向で予想する「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」の展望

最初の冥王モルゴスが滅んだのち、その副官だったサウロンが台頭していく物語

ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」の舞台となる第ニ紀とは、原典によるとヴァラール(全能神イルーヴァタールによって創造され、中つ国を含む世界の管理を任された上級精霊のような存在)の助力を得たエルフたちが最初の冥王であるモルゴスの軍勢を“怒りの戦い”で滅ぼしたのち、サウロンが新たな冥王として君臨。これをエルフと人間が手を組んだ最後の同盟の戦いによって打ち倒すまでの約3400年間を指している。

もともとサウロンはマイアールと呼ばれるヴァラールに仕える精霊のような存在だったが(ガンダルフ、サルマンらイスタリもマイアールの一種)、モルゴスの誘惑によって堕落し(モルゴスも元々はヴァラールだった)、その副官としてあらゆる残虐な行為を行ってきた。その悪行の一つとして、ガラドリエル(モーフィッド・クラーク)の兄、フィンロド(ウィル・フレッチャー)を殺害したこともドラマのなかで触れられている。また、この頃のサウロンは自身の姿形を自由に変える能力を持ち、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ホビット」とは異なり、美しく立派な容姿をとることもできたという。

テルペリオンとラウレリンという二つの木に照らされたエルフたちの故郷ヴァリノール
テルペリオンとラウレリンという二つの木に照らされたエルフたちの故郷ヴァリノール「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」はPrime Video で独占配信中

ドラマ版のエピソード1では、モルゴスが倒れたことで世界は平和になり、行方知れずとなったサウロンの存在も示唆されているものの、エルフたちは大きな危険はないという見方をしている。一方で、若き戦士のガラドリエルは兄の敵討ちのため、執拗にサウロンを追い続けており、ヴァラールやマイアールが暮らすエルフたちの故郷ヴァリノールへの帰還を許されて一度は大海を渡るも、迎えられる寸前のところで己の信念を貫くために海へ飛び込む姿が描かれていた。

シーズン1は全8話で構成され、すでにシーズン2の製作も決定しているほか、ショーランナーのパトリック・マッケイとJ・D・ペインによるとシーズン4~5の構想もあるそう。今回、第ニ紀のどこまでが映像化されるかはまだまだ見えてこないが、原典におけるサウロンの動向からドラマシリーズで描かれるであろう今後の注目ポイントを押さえていきたい。

兄の敵を討つため、消えたサウロンを追い続ける若い戦士だった頃のガラドリエル
兄の敵を討つため、消えたサウロンを追い続ける若い戦士だった頃のガラドリエル「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」はPrime Video で独占配信中

ケレブリンボールに近づき、“力の指輪”を制作させる

サウロンが行った最も重大な計画で、何千年にもわたって中つ国に悪が蔓延る原因となったのが、タイトルにもなっている“力の指輪”の制作。中つ国に暮らす自由の民を自身の支配下に置こうと画策したサウロンは、アナンタールという偽名を使って、エルフの鍛冶職人の国エレギオンの領主で、高名な金銀細工師でもあるケレブリンボール(チャールズ・エドワーズ)に接近する。ケレブリンボールは人間の“九つの指輪”、ドワーフの“七つの指輪”、エルフの“三つの指輪”を作り上げるが、それは巧妙な罠だった。サウロンはすべての指輪を支配する“一つの指輪”を滅びの山で完成させており、指輪の力によって中つ国への支配力を増大させてしまうのだ。

エルフの国エレギオンの領主で、のちに“力の指輪”を作ることになるケレブリンボール
エルフの国エレギオンの領主で、のちに“力の指輪”を作ることになるケレブリンボール「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」はPrime Video で独占配信中

ドラマ版では、エルフの上級王ギル=ガラド(ベンジャミン・ウォーカー)の命で、若い高官のエルロンド(ロバート・アラマヨ)がケレブリンボールのもとを訪問。彼は塔のような鍜治場を建てようとしているのだが、この時点で彼がサウロンから指輪制作の依頼を受けているのかはわからない。ちなみにこのシーンでは、かつてモルゴスを魅了し、世界を荒廃される原因となった宝玉シルマリルを作った祖父フェアノールへの羨望の気持ちをケレブリンボールが吐露しており、のちにその想いが(おもに悪いほうへ)実現されることになると考えるとなんとも皮肉なこと。

指輪を葬り去るという重すぎる責務に苦しむフロド(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』)
指輪を葬り去るという重すぎる責務に苦しむフロド(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』)THE LORD OF THE RINGS, THE RETURN OF THE KING, and the names of the characters, events, items and places therein are trademarks of The Saul Zaentz Company d/b/a Tolkien Enterprises under license to New Line Productions, Inc. The Lord of the Rings: The Return of the King [c] 2003, Package Design [c] 2010 New Line Productions, Inc. All rights reserved.

エルフへの忠義を失ったヌーメノールの人たちを内から滅ぼす

次に紹介したいのが、エピソード3でガラドリエルが訪れた島国ヌーメノールについて。ヌーメノールとは、モルゴスとの戦いでエルフたちの側になって戦った人間族にヴァラールが報償として与えた国で、人間として生きる道を選んだエルロンドの双子の兄、エルロスが最初の王となり、“至福の国”と呼ばれる大陸アマン(ヴァリノールはこの大陸の東部にある国)との交易で、隆盛を極めてきた。

中つ国とは海を挟んだ先にある島国で、かつてないほどの隆盛を極めているヌーメノール
中つ国とは海を挟んだ先にある島国で、かつてないほどの隆盛を極めているヌーメノール「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」はPrime Video で独占配信中

サウロンはヌーメノールとも衝突することになるが、最後の王アル=ファラゾーン(トリスタン・グラヴェル)の大艦隊を前に戦意喪失し、自ら捕虜として投降する道を選ぶ。しかし、当時のヌーメノールはヴァラールやエルフを敵視する王党派とそれに反対する節士派に分断されており、サウロンは堕落したヌーメノール人の死を恐れる気持ちにつけ込み、アマンに侵攻すれば不死の命が手に入ると王に甘言。その言葉を信じたアル=ファラゾーンは大軍を率いてアマンを攻めるが、この行為がヴァラールの怒りに触れることになり、イルーヴァタールによって世界は球形に作り変えられ、アル=ファラゾーンと彼の軍勢は滅び、ヌーメノールも海底へと沈んでしまう。この時、サウロンも一緒に沈んでしまうのだが、肉体を失いながらも中つ国に戻っている。

ミーリエルの補佐役だが、のちに王位を奪うことになるファラゾーン
ミーリエルの補佐役だが、のちに王位を奪うことになるファラゾーン「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」はPrime Video で独占配信中

ドラマ版でも、すでにエルフとの交易は途絶えており、ガラドリエルを敵視しているほか、よそ者のハルブランド(チャーリー・ヴィッカーズ)を見下すなど、ヌーメノールの人々が傲慢になり、国として繁栄しつつも少しずつ崩壊に向かっている様子が見て取れる。そして、この頃のヌーメノールを収めているのは摂政女王ミーリエル(シンシア・アダイ=ロビンソン)なのだが、パランティールによって国が海に沈む未来を目の当たりにしており、そのことが彼女を苦しめ、判断を鈍らせているようだった。ちなみに、ミーリエルの補佐役を務める執政のファラゾーン(王位を意味する“アル=”はまだ付いていない)は、のちに彼女と強引に結婚して王位を手にすることになるので、今後はドロドロした王位継承権争いも展開されそう。

ガラドリエルの言葉を受け、中つ国で興る闇の軍勢と戦うことを決定するミーリエル
ガラドリエルの言葉を受け、中つ国で興る闇の軍勢と戦うことを決定するミーリエル「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」はPrime Video で独占配信中

また、ヌーメノールの海洋警備隊の船長で、ガラドリエルにも協力的なエレンディル(ロイド・オーウェン)は、国の崩壊を生き延び、息子のイシルドゥル(マキシム・バルドリー)と仲間たちを率いて中つ国へ渡ることになる。彼らはこの地でゴンドールとアルノールという王国を建国し、再び勢力を拡大するサウロンとも戦いを繰り広げることに。そしてその偉大な血脈は、「ロード・オブ・ザ・リング」で己の宿命に苦悩するアラゴルンの物語へと繋がっていく。

エレンディル、イシルドゥルらの血を引き、その宿命に苦悩するアラゴルン(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』)
エレンディル、イシルドゥルらの血を引き、その宿命に苦悩するアラゴルン(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』)[c]Everett Collection/AFLO

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