荻上直子監督と松山ケンイチが富山県知事を表敬訪問、『川っぺりムコリッタ』を富山で撮影したワケとは?
富山県でオールロケが行われた『川っぺりムコリッタ』(9月16日公開)の公開に向けて、荻上直子監督と主演の松山ケンイチが富山県知事を表敬訪問。クランクアップから2年、再び富山県を訪れた感想を語ると共に、映画の舞台に富山を選んだ理由を明かした。
「ひっそりと暮らしたい」と無一文のような状態で、川べりの古いアパート“ハイツムコリッタ”に引っ越してきた孤独な男、山田が(松山ケンイチ)が、様々な事情を抱えた住人たちと出会いささやかな幸せを見つけていく様子を描く本作。新田八朗知事が「クランクアップはもう2年前のことなんですよね。全国公開、おめでとうございます」と祝福すると、荻上監督と松山も「ありがとうございます」と感謝しきりだった。
劇中には、おいしそうな炊き立ての白いご飯も登場するが、新田知事は「富山県へ、おかえりなさい。富山県は今年も新米が実りました。映画の大ヒットを祈願して、富山県産の新米を進呈いたします」と気持ちを込め、“一升ますに入った新米”を松山に、荻上監督には“実った稲穂”を進呈した。
そもそもなぜ、富山を舞台に本作をつくりあげたのか。荻上監督は「主人公の青年を、イカの塩辛工場で働いているという設定にした」と口火を切り、「それはなぜかと聞かれてもわからない。(そのアイデアが)降りてきた」とにっこり。
「『塩辛を作っているところはどこだろう』と調べたら、函館が一番で、その次の次くらいが富山県だった。調べてみると、富山には“黒作り”というイカスミを使った、黒い塩辛があって。それもとてもおもしろいなと思った」と富山の名産である“イカの黒作り”もお気に入りになったそうで、「富山にロケハンに来たら、大自然の山も川も海もあって、人々は優しくてあたたかい。これはもう、富山にしようと思いました」と経緯を語る。
本作のロケ地としては、「ぴったりというか、それ以上だった」と荻上監督。コロナ禍の撮影も現地の人々が温かく受け入れたと感謝しながら、「富山という土地が助けてくれて、この映画の底力を上げてくれた。自分が脚本を書いて想像していた以上に、富山の風景が助けてくれた」と富山の空気も、ささやかな幸せを見つめる本作の力になったことを明かしていた。
富山で撮影したことによって、役者陣も影響を受けることがあったという。松山は、自然の雄大さに「圧倒された」と切りだし、「人工的な音がせず、葉っぱのざわめきや、虫の鳴き声が聴こえてきたり、自然が近くにあった。自然を感じながら演技をすることで、自分の頭のなかで考えたもの以上のこと、予想不可能なものが出てくる。それができたのは富山のおかげだなと思うし、荻上監督も富山に感動している目線で切り取っているから、改めて富山に住んでいらっしゃる方も、その土地の美しさを感じられると思います」。さらに「撮影はとても楽しかった。環境がいいからゆったりとできる。皆さんとゆっくり話す時間もありました。(共演者に)いろいろ聞きたいなと思ってしまった。緩んでしまった。それは絶対、富山のせい(笑)」と心穏やかに過ごしたことで、共演者とも距離を縮められたと楽しそうに振り返っていた。
印象に残った場所については、「お寺がすごく印象に残っている。薬勝寺」と口を揃えた松山と荻上監督。富山県を再訪し、新たにその地の魅力を感じたとも。松山も“黒作り”が大好きになったそうで、「富山に来て、初めて、黒作りに出会って。富山の幸や文化にも触れることができました。来てみないとわからないことってたくさんあるなと思いました」とコメント。「富山って、掘れば掘るほどいろいろなことが出てきそう。今日来ただけでも、ロケでも知らなかったことがあって、来るたびにいろいろな発見がある。これからもまた来たいなと思いました」と希望を口にすると、新田知事は「ぜひいらしてください」と目尻を下げていた。
取材・文/成田おり枝