芥川賞作家・中村文則が語る、“小説”と“脚本”の親和性。「京都国際映画祭」での特集上映を迎えた心境は?
「小説とは違う、映画だからこそできる表現に踏み込めた」
「銃」のスピンオフを撮りたいという奥山プロデューサーからの提案によって、製作されたのが『銃 2020』だ。引き続き武監督がメガホンをとり、異なる登場人物、異なる物語で「銃」の兄妹編がつくられていく。
銃を拾う主人公を演じるのは『銃』にも出演した日南響子で、中村は自ら脚本を書いている。「制作サイドが作った脚本を読んだ時に、正直なところあまり好みの作品ではなかったんです。だからもう、僕が書くと決めて…。どうやら奥山さんは僕がそう言うと思っていたようで、まんまとその策にハマってしまったわけです(笑)。書いてみて、脚本と小説は親和性が高いと思いました。ただ、小説では言葉によって世界観を構築し、文体で雰囲気を作り出さなければいけないのに対して、脚本はアイデアをそのまま書くことができる。あとは映画として必要な動きを意識しながら書いていきましたが、時間はかからなかった。僕の感覚ですが、小説だと、同じ物語でも脚本の10倍の時間が必要ですね」。
そして「映画だからこそできる表現というものもあるのかなと、感じることができました」と、『銃2020』の執筆作業によって得た気付きを明かす。「ラストシーンのような大胆なことは小説ではちょっとやらないようなことです。これが小説だったら、きっとまた違うアプローチになっていたと思います。映画ではあのような思い切ったことができる」と、脚本という新たな領域に踏み込んだ手応えを語った。
現在もいくつかの作品が映像化に向けて動きだしているという。「やはりコロナ禍で進みが落ちていて、映画業界も大変なのかなと感じています。いつか実現してほしいものから、まさに実現しそうなものまで複数動いているので、上手くいけばいいのですが」と語る中村は、映像化のオファーがこない作品で一つ、映像化を強く望んでいる作品があるという。「『R帝国』を、いつかアニメにしてもらいたいんです。深夜アニメでもNetflixでも、猫将軍さん(読売新聞連載時、挿絵を担当。本の表紙も手掛けた)の作画監修でアニメ化されれば絶対に伝説になると思います」と、勇気あるクリエイターからのオファーを心待ちにしていた。
取材・文/久保田 和馬
日程:10月15日(土)~16日(日)
場所:よしと祇園花月、ヒューリックホール京都、京都市京セラ美術館、六角堂・池坊ビル、京都大学防災研究所ほか
※10月14日より先行上映開始
※先行しての企画・オンライン上映・展示あり
URL:https://kiff.kyoto.jp/
■小説家中村文則原作映画特集
『銃』『去年の冬、きみと別れ』:ヒューリックホール京都で上映
『銃2020』『火Hee』『悪と仮面のルール』『最後の命』:10月16日(日)23:59までオンライン上映