『ほしのこえ』『君の名は。』…新海誠作品に共通して描かれる”時間”と”距離”のせつなさ
新海誠監督の劇場最新作『すずめの戸締まり』が、11月11日(金)に公開を迎える。公開記念として放送された「金曜ロードショー」で、『君の名は。』が本編ノーカットで放送され、『すずめの戸締まり』本編の冒頭12分が放送されたことでも多いに話題を呼んだ。『君の名は。』(16)と『天気の子』(19)の大ヒットで知られる新海監督。彼の原点は、2002年に公開した初の劇場作品『ほしのこえ』。それから20年、新海監督は徹底して”時間”や”時空”、または物理的な”距離”といった、壁に隔てられた男女のせつない想いを描いてきた。そこで本稿では、新海監督作品におけるそういった“壁”に着目し、作品の魅力を語っていく。
同じ時を過ごしながらも“遠い”距離『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』
『ほしのこえ』(02)は、新海監督にとって初の劇場公開作品となった。国際連合宇宙軍の選抜メンバーに選ばれ、宇宙に旅立った主人公の中学3年生の女子、長峰美加子(声:篠原美香)と、地上で彼女からのメールを待つクラスメイトの男子、寺尾昇(声:新海誠)。携帯電話から送信されるEメールでお互いの思いを伝え合っていた2人が、徐々に広がっていく距離と時間によって翻弄されていく物語だ。新海監督はファンタジーの作風で知られるが、この『ほしのこえ』はSF色が強く、美加子が搭乗するロボットやコックピットの様子、敵との戦闘シーンなどは、様々なロボット作品からの影響を感じさせる。美加子のシーンはスペースファンタジーでありながら、昇のシーンは団地の日常的なリアルの風景といったギャップも、観る者にインパクトを与えた。25分の短編ながら、新海は監督のみならず、脚本、演出、作画、美術、編集など、ほとんどの作業を1人で手掛けたことで話題を集め、第6回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の特別賞などいくつもの賞に輝いた。
『ほしのこえ』が公開された2002年は、初代iPhoneが発売される5年前。LINEもなく、携帯電話のEメールでやりとりをしていた時代。緑色の液晶画面に映る文字が、いま観るととても懐かしく感じる。最初は、まるで隣町に引っ越した相手に送るような気軽さで、メールをやりとりする美加子と昇。しかし美加子が地球から遠のけば遠のくほど、メールが届くのに時間かかるようになり、その差はやがて8年にのぼり、15歳の美加子が送ったメールが昇に届いた時、昇は24歳になっていた。同じ時を過ごしていながら、決して抗うことのできない時空の壁が2人を引き裂いていく。
この「遠くて近い、近いのに遠い」といった感覚は、新海監督作品に共通して流れているもので、それがSFやファンタジーとしてではなく物理的なものとして表現されたのが、2007年公開の『秒速5センチメートル』だろう。「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の短編3本で構成された作品で、主人公の少年、遠野貴樹(声:水橋研二)の思春期から大人になるまでの成長を描いた。第1話「桜花抄」では貴樹と同級生の篠原明里(声:近藤好美)の初恋が描かれ、幸せな時は永遠に続くと思われたが、第2話、第3話では貴樹が引っ越しをして、2人の距離も時間もどんどん遠ざかっていく…。タイトルの「秒速5センチメートル」は、桜の花びらが落ちる速度とのこと。これは3作品を通した貴樹の時間のことなのか、それとも恋が終わって気持ちが切り替わるまでの時間なのか。この速度は、速いのか遅いのか、様々な解釈ができる。永遠というものはない。だからこそ、その一瞬一瞬が尊く、それをどう生きるべきか、問われているような作品だ。