18歳でスクリーンデビュー!『ハモン・ハモン』から『パラレル・マザーズ』まで、ペネロペ・クルスの活躍をプレイバック!
ペネロペ・クルスの才能をうまく引き出すペドロ・アルモドバルの存在感
クルスのキャリアにおける最も重要な人物といえば、やはりスペイン映画界の鬼才、ペドロ・アルモドバルである。クルスが女優を志すきっかけとなった人物であり、彼女の才能を誰よりもうまく引き出すことができるアルモドバルは、彼女がハリウッドで悪戦苦闘している間も、ずっと彼女を心配しながら見守り続けていた。
『ライブ・フレッシュ』『オール・アバウト・マイ・マザー』のあと、ハリウッドに進出し、少々停滞していたクルスの運気を一気に上向きに変えたのは、2006年のアルモドバルとの3作目『ボルベール〈帰郷〉』だった。母、娘、孫娘の3世代にわたる女性たちを描いたヒューマンドラマで、クルスは主人公となる母のライムンダ役を演じ、第59回カンヌ国際映画祭女優賞(クルスを含む出演した女優6人に対して)、ゴヤ賞主演女優賞、ヨーロッパ映画賞最優秀女優賞など数々の賞を受賞。第79回アカデミー賞では主演女優賞にノミネートされた。そもそもハリウッドでの出世作『それでも恋するバルセロナ』のマリア役は、『ボルベール〈帰郷〉』でのクルスの演技を見て感銘を受けたアレンが、彼女を念頭に置きながら執筆したと言われている。
その後も、クルスとアルモドバルのコラボレートは続き、濃厚な恋愛ドラマ『抱擁のかけら』(09)では、かつて映画監督だった脚本家の男の生涯忘れられない女性レナ役で出演。マドリード発メキシコシティ行きの飛行機内を舞台にしたブラックコメディ『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)では、アントニオ・バンデラスと共にカメオ出演している。
アルモドバルの自伝的映画『ペイン・アンド・グローリー』(19)では、バンデラス扮する主人公の映画監督サルバドールの幼少期の母親役を好演。すでに私生活でも2児の母になっていたクルスは、撮影前にアルモドバルの高齢の母に会いに行き、いろいろな話を聞いて、役作りに反映させた。
耐え難い現実と向き合うシングルマザーを演じた『パラレル・マザーズ』
そして、クルスとアルモドバルの7度目のコラボレートとなる最新作『パラレル・マザーズ』(21)は、アルモドバルにとってライフワークともいえる“母性”をテーマに、母と子、家族の絆を真正面から描いた感動のヒューマンドラマだ。
フォトグラファーとして活躍するジャニス(クルス)と17歳の少女アナ(ミレナ・スミット)は、出産を控えて入院した病院で出会う。共に予想外の妊娠で、シングルマザーになることを決意していた2人は、偶然同じ日に女の子を出産し、再会を誓い合って退院する。ある日、セシリアと名付けた娘と対面した元恋人から「自分の子とは思えない」と言われて不安になったジャニスは、密かにDNA検査を実施。100%の確率で実の子ではないという結果に大きな衝撃を受け、もしやアナの娘と取り違えられたのではないかと疑うのだが…。
本作でのクルスは、誰にも言えない葛藤と恐怖、血のつながらない子どもに対する深い母性愛など、様々な複雑な感情を抑制された演技で繊細に体現。ワールドプレミアとなった第78回ヴェネチア国際映画祭で最優秀女優賞に輝いた。
彼女が女優としての現在の地位を築けたのは、アルモドバルという存在がいたおかげで、ハリウッドへと活動の場を広げながらも、自身の軸足はスペインに置くというスタンスがブレなかったからだろう。23歳も年が離れていながら、友情と尊敬の念を抱き、作品制作を通じて互いのキャリアを向上させているゴールデン・コンビ、ペネロペ・クルスとペドロ・アルモドバル。年を重ねるにつれ、深化していく彼らの魔法のようなコラボレーションがいつまでも続くことを祈りたい。
文/石塚圭子