『パラレル・マザーズ』で7度目のタッグ!ペドロ・アルモドバル監督とペネロペ・クルスが振り返る25年|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『パラレル・マザーズ』で7度目のタッグ!ペドロ・アルモドバル監督とペネロペ・クルスが振り返る25年

インタビュー

『パラレル・マザーズ』で7度目のタッグ!ペドロ・アルモドバル監督とペネロペ・クルスが振り返る25年

「スペイン映画には主婦や母親を魅力的に描くという伝統はなかった。でも私はソフィア・ローレンやアンナ・マニャーニのような、イタリア映画に出てくるゴージャスで魅力的な母親を描きたいと考えていました。そこにペネロペが現れた。その瞬間、スペイン映画の主婦や母親というものがより魅力的になったのです」。

前作『ペイン・アンド・グローリー』(20)で第92回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされるなど激賞を浴びたスペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督が、自身のライフワークでもある“母の物語”に回帰した最新作『パラレル・マザーズ』(11月3日公開)。アルモドバル監督は、同作で7度目となったペネロペ・クルスとのコラボレーションについて振り返る。

【写真を見る】脚本を読み涙を流すペネロペ・クルスにアルモドバル監督がかけた言葉とは
【写真を見る】脚本を読み涙を流すペネロペ・クルスにアルモドバル監督がかけた言葉とは[c] Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

「彼女のデビュー作となった『ハモンハモン』を観た時に、一緒に仕事をしたいと思ったことをよく覚えています」。アルモドバル監督とクルスが初めてタッグを組んだのは25年前。『ライブ・フレッシュ』(97)でクルスは、バスの中で出産する若い娼婦イザベル役を演じた。「彼女は優れたコメディアンの才能を持ち、痛みや感情についてもとても深く理解してくれる。そしてなにより、私の仕事のやり方にも適応してくれたのです」。

その後、第72回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しアルモドバル監督の名を世に知らしめた『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)をはじめ、クルスが初めてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた『ボルベール<帰郷>』(06)。さらに『抱擁のかけら』(09)や『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)を経て、アルモドバル監督が自身の人生を投影した『ペイン・アンド・グローリー』では、主人公の母親の若き日をクルスが演じた。


アルモドバル監督の作品に欠かすことのできない女優であり、またアルモドバル監督自身にとってソウルメイトとも呼べるほど重要な存在となったクルス。「これまで彼のために、たくさんの母親を演じてきました。『抱擁のかけら』以外の作品では毎回、母親か妊婦のどちらかを演じています」と振り返るクルスは、「彼はいつも、私がそれまでやってきたことのない新しい題材を与え、新しいドアとチャンスを開いてくれる。そのことにとても感謝をしています」と語った。

2人のシングルマザーの数奇な運命を描く『パラレル・マザーズ』
2人のシングルマザーの数奇な運命を描く『パラレル・マザーズ』[c] Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

最新作『パラレル・マザーズ』でクルスが演じたのもまた母親の役だ。予期せぬ妊娠をしたフォトグラファーのジャニスは、産院で17歳のアナと知り合い彼女と同じ日に女の子を出産する。しかし、とあることがきっかけで娘のDNAテストを行った結果、自分の子どもではないことを知ってしまう。アナの産んだ子どもと取り違えられたのではないかと葛藤しながらもその秘密を封印したジャニス。やがて月日は流れ、偶然に再会したアナから娘が亡くなったことを知らされるのだ。

「彼女の道徳的なジレンマは、演じていてとても興味深いものがありました。罪悪感を抱えながらも、次第に嘘つきになっていく。生き残るために嘘をつかなければならない人を演じるのは、とても貴重な体験でした」とクルスはジャニスという役柄への手応えを語る。本作の演技でクルスは、第78回ヴェネチア国際映画祭の女優賞に輝き、自身2度目のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど、高い評価を獲得した。

子どもの父親である元恋人からの一言をきっかけに、DNA鑑定に踏み切ることになるが…
子どもの父親である元恋人からの一言をきっかけに、DNA鑑定に踏み切ることになるが…[c] Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

一方でアルモドバル監督は、クルスの演技について「とても直感的だ」と称賛。「彼女は自分がしていることを感じ取らなければならないが、とても感情的なので脚本を読むたびに圧倒されて泣き出してしまっていた。最初は好きなだけ泣かせたが、最後は彼女の涙を枯らすことに専念した」。入念なリハーサルの過程で涙を流していたクルスとアナ役のミレナ・スミットに対しアルモドバル監督は、「泣きたいだけ泣けばいい。でもそれは君たちの涙で、僕はそんなものに興味はない。登場人物の涙を見る必要があるんだ」と声をかけたそうだ。

そして「彼女は私の芸術的な家族の一員であり、個人的な感情の家族の一員でもある」と、アルモドバル監督は今後もクルスとタッグを組んでいくことへの意欲をのぞかせる。「彼女は私の作品にすべて出演したいと言ってくれているからね。もちろん私も全作品に出てもらいたいが、すべての作品に彼女が出てくるかどうかはわからない。でもおそらく起用し続けることでしょう」。

『パラレル・マザーズ』は11月3日(祝)より公開!
『パラレル・マザーズ』は11月3日(祝)より公開![c] Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

それに対しクルスも、「私にとっては彼の映画に100本出演できたとしても、それは充分ではない。彼と一緒に撮影現場にいる時はいつでも大冒険をしているし、食事に行く時でさえも同じような気持ちを抱く。きっと私たちは、永遠にお互いの人生の中にいるのでしょう」と、映画監督と女優という関係を超越した両者の強い絆を感じさせた。

構成・文/久保田 和馬

関連作品