『告白』「Nのために」『母性』まで…映画とドラマで改めて没入したい湊かなえワールド!
吉永小百合主演で映画化されたヒューマンドラマ『北のカナリアたち』
「往復書簡」所収の1編「二十年後の宿題」を原案に、『闇の子供たち』(08)の阪本順治が監督、吉永小百合が主演した映画が『北のカナリアたち』(12)。20年前に夫を水死事故で失った女教師と、彼女の6人の教え子たちの過去と現在という要素を小説から抽出し、原作とはまた少し違った趣向を凝らした感動のヒューマンドラマに仕上がっている。映画ならではのスケール感の大きさを感じさせる本作は、12年の報知映画賞や日刊スポーツ映画大賞などのほか、第36回日本アカデミー賞でも数多くの部門の賞を受賞した。
“母親”に焦点を当てた連続ドラマ「夜行観覧車」
湊かなえにとって、初めて地上波で連続ドラマ化された作品がTBS金曜ドラマの「夜行観覧車」(13)だ。高級住宅街で起こった殺人事件を機に、物語は過去と現在を行き来しつつ、事件の真相に迫っていく。殺人、いじめ、家庭内暴力など、現代社会の抱えるさまざまな問題を描いている点は他の湊作品と同様だが、本作ではストレートに“母親”にスポットを当てている。脚本を担当したのは、清水友佳子と、『おおかみこどもの雨と雪』(12)や『八日目の蝉』(11)など、母親の愛情を描くことに定評がある奥寺佐渡子。ドラマ版で強調されていた鈴木京香と石田ゆり子が演じる2人の母親同士の友情も共感を呼んだ。
美人OL殺人事件をめぐる証言に浮かび上がる真実とは?『白ゆき姫殺人事件』
『ゴールデンスランバー』(09)の中村義洋監督が映画化した『白ゆき姫殺人事件』(14)は、原作のストーリーに忠実、さらにSNSやマスコミの野放図さを生々しく映像化することで、よりエンタメ性の強い作品となった。美人OL殺人事件をめぐり、関係者たちの証言によって、不審な容疑者・城野美姫の存在が浮かび上がっていく。テレビ局のワイドショー番組のディレクター・赤星役を演じた綾野剛は、本作で第88回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞を受賞。容疑者・美姫役の井上真央は、第38回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞した。語り手の虚言と真実が入り混じり、ひとつの出来事が幾通りもの様相を見せるという、湊かなえ版「藪の中」の醍醐味を楽しめる1作だ。
15年間を描く純愛ミステリー「Nのために」
脚本の奥寺佐渡子をはじめ、ドラマ「夜行観覧車」のスタッフが再結集して制作された「Nのために」(14)。高級マンションで起こった殺人事件の現場に居合わせた4人の男女。そのうちの1人が逮捕されるが、事件から10年の時を経て、元警察官が改めて事件の真相を追い始める。湊作品は章ごとに語り手が次々と変わったり、時系列が錯綜したりするものが多いのだが、このドラマ版では時系列を再編成し、15年間という時間軸を過去から順番に描き直すという構成を採用。榮倉奈々演じる希美と、窪田正孝演じる成瀬の高校生時代を丁寧に描いたことで、みずみずしく切ない青春ドラマとしての魅力も高まった。ちなみに本作で共演した榮倉奈々と賀来賢人が、1年の交際を経て、2016年に結婚するきっかけとなった作品でもある。