『告白』「Nのために」『母性』まで…映画とドラマで改めて没入したい湊かなえワールド!

コラム

『告白』「Nのために」『母性』まで…映画とドラマで改めて没入したい湊かなえワールド!

過ちを冒した女性たちの複雑な心理を描き出す「ポイズンドーター・ホーリーマザー」

全6話の連続ドラマ「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(19)は、2016年に刊行された短編ミステリー小説集を映像化したもの。母と娘の関係を軸にしながら、さまざまな苦悩を抱える女性の複雑な心理と、彼女たちが冒してしまう過ちを描く。各話の主人公を演じるのは、寺島しのぶ、足立梨花、清原果耶、中村ゆり、倉科カナ、伊藤歩の6人。特に表題作となる1話と2話は、同じ出来事であっても、人によって受け取り方や印象がまるっきり変わってしまうという、湊作品ではおなじみの残酷な現実が鮮やかに映しだされる。

“母性”とは?最新作では真正面からテーマを突きつける

そして、現在公開中の新作『母性』は、タイトルどおり、一般的に女性にもともと備わっていると思われている“母性”とは一体何なのか?という問いを真正面から突き付けてくる問題作だ。無償の愛を与えてくれる母のもとで育ち、その娘であることに何よりも幸福を感じていたルミ子。一方、そんなルミ子のもとで、良き娘であろうと苦しみながら、母の愛をひたむきに求め続ける清佳。それぞれにとって最愛の母、そして祖母の悲劇的な事件を境に、2人の運命は大きく変わっていく――。

監督は『ヴァイブレータ』(03)、『余命1ヶ月の花嫁』(09)の廣木隆一。脚本は『ナラタージュ』(17)の堀泉杏が担当した。庇護される娘から、結婚し、子供を産んだことで、母、長男の嫁へと大きな変化に迫られる主人公・ルミ子を演じたのは戸田恵梨香。湊かなえ原作の映像化作品への出演はドラマ「花の鎖」(13)や「リバース」(17)に続き3度目となる。ルミ子の娘・清佳役には永野芽郁。多感な思春期の高校生から、社会人となった後の2つの時代の清佳を見事に演じ分け、母との関係に苦しむ娘の揺れ動く感情を体現している。

「母になら殺されてもいい」と思うほど“母性”に翻弄される娘の葛藤とは?
「母になら殺されてもいい」と思うほど“母性”に翻弄される娘の葛藤とは?[c]2022映画「母性」製作委員会

これまで映像化されてきた作品を見ても分かるように、“母と子”、特に同性同士である“母と娘”は、湊がデビュー当時からずっと書き続けている大事なテーマのひとつ。また、過去と現在が交錯し、章ごとに語り手が入れ替わるという手法も、湊作品の大きな特徴だ。本作でも、ある未解決事件が起きた現在の事象と、母と娘が回想する2つの事象を行き来しながら物語が進んでいく。母親と娘の2つの視点。はじめのうちは、それぞれの見え方、感じ方の違いが明確だったはずなのに、いつしかどちらの視点のものなのかが曖昧になっていき、最終的な判断は観客にゆだねられるという演出が心憎い。

どんな真実も多面的であり、私たち人間もまた「この人はこういう人」だと一言で言い切ることができない多面体な存在であること。それを教えてくれる湊かなえ作品には、年を重ねたり、環境が変わったりした後に読むと、新たな解釈が得られる懐の深さがある。物語に自分の経験や価値観を重ね合わせつつ、登場人物たちがこの後、どのような人生を送るのかに思いを馳せずにはいられない湊作品の魅力を、じっくりと味わってみてほしい。

文/石塚圭子


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