原点「王様と私」から「千と千尋の神隠し」まで。上白石萌音が振り返る、舞台女優としての歩み - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
原点「王様と私」から「千と千尋の神隠し」まで。上白石萌音が振り返る、舞台女優としての歩み

インタビュー

原点「王様と私」から「千と千尋の神隠し」まで。上白石萌音が振り返る、舞台女優としての歩み

「ジョン・ケアードさん、神野三鈴さんとの出会いが、大きな転機に」

上白石萌音の進化を支えた、忘れられない言葉とは?
上白石萌音の進化を支えた、忘れられない言葉とは?撮影/垂水佳菜

夢を現実のものとし、着実に舞台経験を重ねてきた。人気女優として進化していくうえで転機と思える出会いについて聞いてみると、「ジョン・ケアードさん、神野三鈴さんとの出会いは、私にとってとても大きなものでした」と心を込める。

「レ・ミゼラブル」世界初演の演出を担うなど、演劇史に残る名作を生みだしてきた演出家ジョン・ケアードとは、「ナイツ・テイルー騎士物語ー」、「千と千尋の神隠し」、「ダディ・ロング・レッグズ 〜足ながおじさんより〜」、そして3月11日より幕をあける「ジェーン・エア」でタッグを組んできた。

上白石は「ジョンは恩人です。私の舞台人生は、ジョンなしでは語れない。ジョンの言葉って、すべてが魔法のようなんですよ」と微笑み、「ジョンと初めて出会ったのは、『ナイツ・テイルー騎士物語ー』のオーディション。私はヒロインの姫役でオーディションを受けたんですが、私のお芝居と歌を見たジョンから『あなたには孤独で、素朴で、さみしそうな孤児の役が合っている』と、別の役でキャスティングしてくださいました。そのメールはまだとってありますが、ジョンはその時のその人に合う役、必要な役を見極める力を持っているんです」と出会いから驚かされたそう。続けて「もう一つ忘れられないのが、舞台『千と千尋の神隠し』でのジョンの言葉。『千と千尋の神隠し』はゲネプロ(本番の条件で行う最終リハーサル)なしで本番に向かうことになりましたが、その時の私は舞台袖でガクガク震えて、『どうしよう、どうしよう』と半泣き状態だったんです。するとジョンが『Don't be nervous, Just be chihiro』(緊張するな、千尋になれ)と言ってくれました。私は『了解です』と舞台に出て行きました。直感で、心に響く言葉をかけてくれる方なんです。いつも核心をついてくるし、とても愛情深い方です」と感謝をにじませる。

「相手と心を通わせる」ことがすべての基盤になっていると笑顔を見せた
「相手と心を通わせる」ことがすべての基盤になっていると笑顔を見せた撮影/垂水佳菜


また音楽劇「組曲虐殺」で共演した神野三鈴からも、自身の柱となるような言葉をもらったという。上白石は「舞台って、始まってしまえばカットもかからないし、最後まで人と人の“心”でつないでいくもの。もちろん台本の結末はしっかりとあるけれど、どのように転がっていくのかわからないというスリルもある。お客さんの空気も毎回違うので、1回として同じものは出来上がりません。それが舞台の一番いいところだと思うんですが、“その場の空気や空間を大切にしながら、お芝居をする”というのは、映像作品に臨む際にも念頭に置いておきたいことで。それを教えてくださったのが、神野三鈴さんです」と告白。

「当時、私はお芝居についてすごく悩んでいて。神野さんが『お芝居は相手と心を通わせることが大切で、あなたは映像の現場でも舞台に立っているようにお芝居ができるはず。それを貫け』とおっしゃってくださった。お客さんに届ける前に、相手役の人に届かないと意味がないんですよね。そこでしっかりと届けば、観てくださる方にもきっと伝わる。いまいろいろなお仕事をさせていただいていますが、私にとって『相手と心を通わせる』ということはすべての基盤になっているように思います」と打ち明ける。

「『千と千尋の神隠し』でダブルキャストを務めた橋本環奈ちゃんは、戦友であり同胞」

2022年の2月から7月に行われた舞台「千と千尋の神隠し」は、宮﨑駿による原作映画をアイデアと造形技術、役者陣の熱演によって見事に舞台化として成功、大きな話題を呼んだ。コロナ禍で仲間と共に本作を駆け抜けたことも「かげかえのない時間になった」という。

橋本環奈とダブルキャストで千尋役を見事に演じきり、大きな話題を呼んだ「千と千尋の神隠し」
橋本環奈とダブルキャストで千尋役を見事に演じきり、大きな話題を呼んだ「千と千尋の神隠し」画像提供:東宝演劇部 

主人公の千尋役を演じた上白石は「ゲネプロなしで本番に臨むなんて、こんなに怖いことはない!今後大変なことがあっても、『あの時よりは大丈夫』と思えるかも。そういった意味でも、大事な試金石ができました」と笑いつつ、「お稽古も『今日は台本の3行しか進まなかった』という日もありましたし、改めて妥協なく、突き詰めてやるべきなんだと実感するような時間でした」とキッパリ。ドキュメンタリー番組「もうひとつの千と千尋の神隠し~舞台化200日の記録~」にも収められていたジョン・ケアードの姿を振り返りながら、「ジョンは『時間がなかったから、このクオリティになりました』というものを披露してはダメなんだ、ということをおっしゃっていました。これってものづくりの真髄ですよね。ハッとさせられました」とうなずく。

コロナ禍でのチャレンジにおいては、稽古が止まったり、公演を休まざるをえなくなった人の代役をあらゆる人が務めたりと、困難のなかチーム一丸となって作品を支え続けた。上白石は「『この役には、代わりにこの人が入ります』とスケジュール表が更新されるのを見るたびに、ボロボロ泣いていました。『これが舞台だ』と思うと同時に、『誰一人欠けてはいけないんだ』と思って。毎公演『今日が最後になるかもしれない』と覚悟しながら、一人でも多くの方に観ていただけるよう、1回でも多く幕を開けられるよう、みんなで走り抜けました。本当に尊い経験をしました」と目を細め、ダブルキャストを務めた橋本環奈については「どれだけ助けられたかわからない」とコメント。

「環奈ちゃんはいつも、『大丈夫、大丈夫!』『最高!』『行ける!』と声をかけてくれました。私にないものをいっぱいもっていて、お稽古場でもそれを輝かせていました。本物のスターだなと感じましたし、環奈ちゃんと一緒に過ごせたことは、ものすごく勉強や刺激になりました。紅白(第73回NHK紅白歌合戦)の司会もすばらしかったですよね。テレビの前の私のほうがドキドキしていたかも(笑)。本当にすごい!」と賛辞が止まず、「環奈ちゃんは、私にとって戦友であり、同胞」と表現する。

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