原点「王様と私」から「千と千尋の神隠し」まで。上白石萌音が振り返る、舞台女優としての歩み
「映像で舞台を観られることは、私たち舞台に立つ者としてもとても心強く、ありがたいこと」
インタビューで対峙していても、常に心遣いと笑顔を絶やさない上白石からは、温かな人柄と舞台への愛情があふれていた。舞台のよさについて、いま痛感しているのはどのようなことだろうか。「役者さんが汗をかいて、身を削っている姿を目の当たりにすると、やっぱり心を打たれますよね。人の心と身体で表現できることって、たくさんあるんだなと思うし、それを空気ごと伝えられるのが舞台という場所」だといい、「そして舞台って、時間がつながっているんですよね。一人一人の身体を使って場面を表現して、お客さんも彼らと同じ時間の経過をたどっていく。役者さんの高揚や疲労が見られることも含め、人間そのものを“生”で感じられる場所なのかなと思います」と熱っぽく語る。
舞台芸術のアーカイブをオンラインで閲覧可能にするなど、人と舞台の距離を縮める活動を行っている「EPAD」。もちろん“生”を感じることが舞台の醍醐味ではありつつも、映像で鑑賞できるとなると、より気軽に、たくさんの人に舞台を届けることもできる。舞台芸術の可能性を広げるような取り組みだが、上白石も映像で舞台を鑑賞することがよくあるという。
上白石は「オンラインや映像で舞台を観ることができると、私のようになかなか舞台が観られない地域で育っている人たちも、より多くの演劇に触れられる機会が増える。たくさん質のいいものに触れることで、目指す対象や夢ができる人もいると思うんです。それって本当にすばらしいことですよね。劇場は、小さなお子さんが入れない場合も多いので、小さなお子さんをお持ちの親御さんが、家で演劇を観られるのもとてもうれしいこと。こうして間口が広がっていくのは、舞台に立つ者としてもとても心強く、ありがたいことです」とEPADの活動に共鳴。「一度劇場で観た作品も、家に帰ってからもう一度配信版を購入して観てみると、また違う楽しみ方もできたりして。役者としては勉強にもなります」のだとか。
「千と千尋の神隠し」は配信版も鑑賞したそうで、「『ここでこんなお芝居をしている人がいる!』『照明って、ここでこうなっていたんだ』と宝探しのようになりながら、『この舞台は、みんなで作ったんだ。最高!』と感動しました。たとえばネズミとハエドリが登場するシーンでは、手代木花野さんと新井海人くんが、ものすごく細かいお芝居をしていて。そうやってパペットを操演する方々も毎回新鮮に取り組んで、役に魂を宿らせていました。その姿を見た時には、燃えましたね。細かいお芝居にもフォーカスして、前のほうの席に座ってなければわからない部分まで楽しめるのも、映像ならでは。いつか『千と千尋の神隠し』のカンパニーで、配信版の鑑賞会をしてみたいです。『ブラボー!』って言いながら。にぎやかになるだろうなあ。うるさすぎるかも!」と楽しそうに語る。
1月に25歳となり、3月からは「ジェーン・エア」の公演が始まるなど、女優としての挑戦は止まることなく続く。上白石は「『この役をやりたい』と願って、目標を持ちながら歌やお芝居を練習していける。それも舞台のすばらしいところで、夢があるなと思います」としみじみ。「アラサーだ!」と自分の年齢を確認しながら、「私には年上の友人が多いんですが、みんなが舞台の上で輝き続けている姿に触れると、本当に憧れます。年齢を重ねていくと、子ども役だったものが、ヒロインになり、それを見守る側になって…と舞台上での役割が少しずつ変わっていくこともあると思います。そう思うとチャレンジに終わりがないし、ものすごく夢がある。憧れの先輩方のように、学ぶことをやめずに、これからも歩んでいきたいです」と、まぶしい笑顔で語った上白石萌音。“相手と心を通わせ、人に寄り添うこと”を胸に刻んでいる彼女が、これからもたくさんの観客を感動させていくことだろう。
取材・文/成田おり枝