ティルダ・スウィントンが語る、ジョージ・ミラーとのコラボレーション「彼の映画は私を子どものようにしてしまう」

インタビュー

ティルダ・スウィントンが語る、ジョージ・ミラーとのコラボレーション「彼の映画は私を子どものようにしてしまう」

マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)で世界中を熱狂の渦に包んだジョージ・ミラー監督の待望の最新作『アラビアンナイト 三千年の願い』(公開中)。本作で主人公のアリシア役を演じたティルダ・スウィントンは「出演の決め手はジョージ・ミラーが監督を務めること。私はジョージの映画の大ファンなので、撮影の最初から最後まで夢のようでした」と念願のコラボレーションを振り返る。

【写真を見る】ガラスの瓶から巨大な魔人が!?「マッドマックス」ジョージ・ミラー監督が壮大なファンタジーに挑む
【写真を見る】ガラスの瓶から巨大な魔人が!?「マッドマックス」ジョージ・ミラー監督が壮大なファンタジーに挑む[c] 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

A・S・バイアットの短編小説を原作にした本作。古今東西の物語や神話を研究するナラトロジー(物語論)の専門家であるアリシアは、講演のために訪れたイスタンブールで美しいガラス瓶を購入。そのなかから現れた巨大な魔人“ジン”は、瓶から出してくれたお礼にと“3つの願い”を叶えることを申し出るが、アリシアはそれに疑念を抱く。そして魔神は彼女の考えを変えさせるべく、紀元前から3000年にも及ぶ自分の物語を語り始めるのだが…。

デレク・ジャーマンを皮切りに、デヴィッド・フィンチャーやウェス・アンダーソン、ポン・ジュノ、ジム・ジャームッシュやペドロ・アルモドバルなど、世界の名だたる実力派監督とタッグを組んできたスウィントン。「私の世代の役者の大半は、アルフレッド・ヒッチコックと働くことはできなかった。でもジョージ・ミラーがいる。彼を“同僚”と呼べることはとても大きなこと」と、ミラー監督へのこの上ない敬意をのぞかせる。

「アラビアンナイト」をモチーフにした短編小説を映画化!
「アラビアンナイト」をモチーフにした短編小説を映画化![c] 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

ミラー監督といえば、「マッドマックス」シリーズに代表される刺激的なバイオレンス映画だけでなく、『ベイブ/都会へ行く』(98)や「ハッピー・フィート」シリーズなど、世代を超えて楽しめる娯楽映画をも手掛けてきた稀代の職人監督。本作では、これまでのどの作品とも似ていない壮大なファンタジー映画を作り上げた。

「彼が作った様々な映画を観る時、私はいつも子どものように反応してしまう」と、ミラー監督作品への愛情を語るスウィントン。「たしかに本作は、これまでの作品とまったく違う。でも彼が作る映画にはいつも共通点があり、“空想”というものへの意気込みは同じ雰囲気を感じるのです。なので初めて台本を読んだ時には、まさにジョージの映画だと感じました」。

「願い事なんてない」というアリシアが告げた、驚くべき願い事とは
「願い事なんてない」というアリシアが告げた、驚くべき願い事とは[c] 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.


本作でスウィントンが演じたのは、幼いころから孤独を愛し、空想の世界に生きてきた物語論の専門学者アリシア。巨大な魔人と対面し、願い事を叶えてもらえるとなっても彼女は、その危険を物語を通して知っている。そして魔人の語る物語を聞かされ、自身も想像していなかったある願い事をすることになるのだ。

「この映画が突き進む道筋には、人類や社会の進化という要素がいくらか含まれています。そこには女性が置かれている境遇が関係している。女性の充足感や願望について描いています」と、寓話的な本作に込められたテーマについて、自身の考えを述べるスウィントン。

「アリシアはその現状を受け入れることに必死で、物語で感情を見出したい。アリシアの夫は気持ちを理解してもらえずに不満を抱き、ほかの女性と駆け落ちをする。それで彼女は自分の在り方を決めた。“他人の人生を観察し、他人の物語を伝えよう”と。でも同時に“自分は深く関与しない”とも決める。だから魔人に出会い願いを聞かれた時も、『願い事なんてない』と答える。それを誇らしく思っていました」と演じた役柄について分析した。

アリシアの考えを変えさせるため、魔神は3000年にも及ぶ自身の物語を語るが…
アリシアの考えを変えさせるため、魔神は3000年にも及ぶ自身の物語を語るが…[c] 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

そしてスウィントンは、改めてミラー監督とのコラボレーションについて振り返る。「彼の仕事は厳格で熟練度が高い。それでもとても新鮮で自由に感じられるものでした。厳しいルールではないけれど、しっかりした枠組みがある。そうやって何年もかけて確立してきたものがあるから、私が唐突に『こんなのはどう?』と提案しても彼は『やってみよう』と言ってくれるのです」。

絵コンテや撮影リストを使い込み、自分の思い描いた揺るがないビジョンを柔軟に実現していく。そんなミラー監督の映画術をスウィントンは、「ポン・ジュノのやり方とよく似ている。確かな枠組みがあるからこそ、自由な演技ができました」と称えた。様々な監督の作品で幾多の異なる顔を見せてきたスウィントンが、ミラー監督とのコラボレーションでどんな演技を見せているのか。その化学反応に注目しながら、愛と狂気が渦巻く唯一無二のおとぎ話を、ぜひスクリーンで堪能してほしい。

文/久保田 和馬

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