オスカー最有力『エブエブ』を生みだした『アベンジャーズ』ルッソ兄弟の制作会社AGBOって知ってる?
AGBOの“らしさ”が詰まった最新作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
このようにあらゆるジャンルの作品を通して、革新的なアイデアを発信することを目的としてきたAGBO。その最新作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』もまた、気鋭の監督コンビ、ダニエルズの豊かなアイデアが光る1作だ。MCU作品では『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(21)に出演したアクション女優の重鎮、ミシェル・ヨーが主演を務める本作。中国系アメリカ人一家が、カンフーでマルチバース中の地球の危機に立ち向かう…という、あらすじを1回聞いただけではよくわからない1作だ。
経営するコインランドリーは破綻寸前、父親の介護に、反抗期の娘、優しいが頼りにならない夫など多くのトラブルを抱えドン底の日々を送るエヴリン(ヨー)。国税局に足を運ぶも監査官から厳しい追及を受けていたところ、突如現れた別次元の夫に「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託された彼女は、ほかの次元の自分が持つ様々な能力を駆使して巨悪に立ち向かっていくことになる。
MCUとも通じるような“マルチバース”という設定を軸に、12ものストーリーラインが絡み合う物語には、中国系家族の保守的な家族観やうだつの上がらない日々を送る主婦の悲哀など様々な要素が盛り込まれており、まるでクリエイターの頭の中を見ているよう。
ごちゃごちゃになりそうな映画だが、映像の見せ方や整理された物語によって初見でも理解できるようになっており、ここにもルッソ兄弟の映画作りの巧さを垣間見ることができる。
また物語を彩るアクションは、ヨーをはじめ、武術指導といった裏方仕事でもキャリアを積んできたキー・ホイ・クァンら、アクション俳優たちが名を連ねているだけあって本格的。素手対素手のダイナミックな戦いはもちろん、看板、椅子、ウエストポーチといった身の回りのアイテムを華麗に駆使した立ち回りまで、見応え抜群だがどこか笑えるカンフーの“ツボ”を押さえたアクションは、さすがAGBOというクオリティだ。
大作で培った確かな腕を駆使し、一筋縄ではいかないような企画もしっかりとエンタメとして成立させ、良作を連発してきたAGBO。今後も『タイラー・レイク -命の奪還-2』(6月配信予定)や『ヘラクレス』の実写版など楽しみな企画が待機しているので、動向に注目してみてほしい。
文/サンクレイオ翼