和装洋装の入り交じる明治~大正時代。『わたしの幸せな結婚』や「鬼滅の刃」など“ファッション転換期”を舞台にした映像作品
上流階級のファッションを味わえる『春の雪』
大正時代の上流階級の麗しいファッションをたっぷり堪能できる作品が、三島由紀夫の名作「豊穣の海」四部作の第1巻を、行定勲監督、妻夫木聡、竹内結子主演で実写映画化した『春の海』(05)だ。大正初期の貴族社会を舞台に、明治維新の功労者を祖先に、侯爵である父を持つ松枝家の一人息子・松枝清顕(妻夫木)と、公家の家系にある綾倉家の令嬢・聡子(竹内)の破滅へと運命づけられた悲劇的な愛の物語が描かれる。
名家だが、武家の成り上がりである松枝家は洋装がメイン。由緒正しい貴族である綾倉家は和を重んじるスタイルと、ファッションで家のカラーを表現しているのがポイント。主人公の清隆は当時の学習院の制服を再現した詰め襟の学生服、学帽、黒マントとストイックなイメージで、私服では白いシャツにサスペンダーつきのパンツが定番だ。一方、聡子は鮮やかなエメラルド色の着物に、髪には大きなリボンという無垢な娘らしい登場シーン以降、数十にもなるコーディネートの数々が、少しずつ変化する彼女の心模様を映しだしていく。また、聡子の婚約者である宮家の王子、洞院宮治典殿下(及川光博)は軍服で登場する。
和装洋装の中にも着こなしに個性が現れる「明治東亰恋伽」
明治時代にタイムスリップしてしまった現代の女子高生、綾月芽衣(声:諸星すみれ)が、森鴎外(声:浪川大輔)や菱田春草(声:KENN)など、歴史上の人物たちと出会う、大ヒット恋愛ファンタジー作品「明治東亰恋伽」。最初は恋愛ノベルゲームとしてリリースされ、以後、アニメ映画『劇場版 明治東亰恋伽 〜弦月(ゆみはり)の小夜曲(セレナーデ)〜』(15)、『劇場版 明治東京恋伽 ~花鏡の幻想曲~』(16)、アニメシリーズ、舞台とメディアミックスが続き、2019年には実写ドラマと実写映画が公開された。
ヒロインの芽衣が森鴎外らと初めて出会うのは、鹿鳴館で開かれていた舞踏会。出会いのシーンで、時代にそぐわない服装を突っ込まれる芽衣は、その後、当時の女学生スタイルだった袴を着用している。明治を舞台にした作品らしく、キャラクターたちの普段の服装は着物が中心だが、謎の奇術師、チャーリー(声:森川智之)は当時の男性の礼服だった燕尾服姿である。
書生服の先生&セーラー、ブレザーの女子高生「さよなら絶望先生」
「さよなら絶望先生」は、久米田康治による同名コミックを原作とするアニメシリーズ。ブラックなギャグをちりばめながら、超ネガティブな性格の高校教師、糸色望(声:神谷浩史)と、彼が担任するクラスのクセ強キャラな生徒たちが繰り広げる学園生活が描かれていく。実は本作の舞台は、昭和の元号が続く現代日本という設定で、そこに近代文学風のレトロ調が混在するという異色な世界観が特徴だ。基本的に女子生徒はセーラー服、男子生徒は学ラン。しかし、信州の名家出身で、文学好きの絶望先生は、スタンドカラーの白シャツに着物を着て、縞袴をあわせた、夏目漱石の「坊ちゃん」を彷彿とさせる書生スタイルで通している。
衣服の“模様”に込められた意味にも注目「鬼滅の刃」
大正時代を舞台にした作品として、いまや最も有名な作品といえるのが「鬼滅の刃」。様々な和洋折衷的スタイルが誕生した時代にふさわしく、登場人物たちの服装もバラエティに富んでいる。主人公、炭治郎(声:花江夏樹)を始めとする鬼殺隊の制服は軍服、鬼殺隊の頂点にいるお館様(声:森川智之)は着物、鬼舞辻無惨(声:関俊彦)はスーツにネクタイ姿、医師の珠世(声:坂本真綾)を敬愛する愈史郎(声:山下大輝)はシャツに着物の書生スタイル。大正初期を設定しているため、女性は和装が基本だが、その中でも禰豆子(声:鬼頭明里)の着物は麻の葉文様、帯は市松模様と、日本の伝統的な柄なのに対し、珠世の着物は艶やかな大輪の花の柄で、西洋の影響を受けている。また、炭治郎の羽織の柄が、禰豆子の帯と同じ市松模様であり、市松模様は子孫繁栄の意味を持つなど、鬼殺隊の隊員たちが軍服の上に羽織るコートの柄が、キャラによって異なり、それぞれに意味があるのも興味深い。
“大正時代”の定番ルック「はいからさんが通る」
はねっかえりのじゃじゃ馬娘、花村紅緒(声:早見沙織)と、彼女の許嫁で、陸軍歩兵少尉の伊集院忍(声:宮野真守)の波乱に満ちた運命の恋。短くも激動の大正時代を背景に描く「はいからさんが通る」の原作は、大和和紀による同名コミック。これまでにテレビアニメシリーズ、テレビドラマ化、南野陽子主演の実写映画化(1987)、単発ドラマ化、そして、アニメ映画『劇場版 はいからさんが通る 前編~紅緒、花の17歳~』(17)、『劇場版 はいからさんが通る 後編~花の東京大ロマン~』(18)と、繰り返し映像化されてきた。特に劇場アニメの後編では、各メディア作品では初めて、1923年(大正12年)に起こった関東大震災前後の感動のフィナーレまでが描かれている(ちなみに本作の時代設定は「鬼滅の刃」とほぼ同時代、紅緒は禰豆子もしくは炭治郎と同い年だったと考察されている)。
本作を代表するファッションといえば、矢絣の着物に海老茶色の袴という紅緒の女学生スタイルと、少尉の軍服(矢は一度放たれると戻ってこないことから、矢絣の柄は結婚で出戻りしないという意味を持つ)。それ以前の時代では、女性が自転車に乗ったり、スポーツしたりすることは考えられなかったため、ハツラツとした袴姿の女学生たちは、女性が家庭の中だけでなく、社会での活躍を目指していく新しい時代のシンボルでもあった。
ファッションから見る日本の変化も一緒に楽しむ
こうして見てみると、西洋のさまざまな文化が取り入れられていった明治、大正期は、日本の伝統と近代化が入り混じった革新的な時代であり、そのドラマティックな背景ゆえに、物語を生み出すクリエイターたちから作品の舞台に選ばれてきたことがわかる。人々の生き方や在り方とも関係している当時のファッションもチェックしながら、どこか懐かしさと新鮮さを同時に感じさせる、レトロモダンな魅力あふれる作品を楽しんでほしい。
文/石塚圭子
※高石あかりの「高」は「はしごだか」が正式表記