コリン・ファレルが語る、マーティン・マクドナー監督の手腕と『イニシェリン島の精霊』の秀でた魅力
2017年に映画賞を総なめした『スリー・ビルボード』(17)のマーティン・マクドナー監督がメガホンをとり、本年度の第80回ゴールデン・グローブ賞で最多3冠を獲得した『イニシェリン島の精霊』(22)。本作で主演を務めたコリン・ファレルは、ゴールデン・グローブ賞や第79回ヴェネチア国際映画祭ヴォルピ杯男優賞など、数多くの主演男優賞に輝いた。ファレルは、絶大な信頼を寄せるマクドナー監督のもと、主人公パードリック役にどう向き合ったのか?
本作の舞台は1923年、内戦に揺れるアイルランドの孤島、イニシェリン島。心優しい男パードリック(コリン・ファレル)は長年友情を育んできた友人コルム(ブレンダン・グリーソン)から突然の絶縁を告げられ、動揺する。賢明な妹シボーン(ケリー・コンドン)や隣人ドミニク(バリー・コーガン)の力も借りて事態を好転させようとするが、コルムは向こう見ずの最後通告を言いわたす。
「マーティンの物語で好きなところの一つは悪意がないところです」
本作の時代設定はアイルランド内戦が巻き起こっていた1923年。架空の島イニシェリンに被害は及んでいないが、本島からの緊張感は伝わってきている。「大砲の号砲や銃声が聞こえる夜もあり、島の住民も内戦が起きていることが分かっています。でも、この島は寂しい離島ゆえに内戦から隔離されているとも言えます」。
とはいえ「実在する場所についての映画ではなく、マーティンが想像力を駆使して創作したものです」としたうえで「物語のあらすじは、2人の男が絶交し、そのいざこざが隣近所に飛び火する、といったものですで、内輪もめ、狂乱、喪失、痛みと同時に笑いも起きます」と解説。
またファレルは、パードリックとコルムを取り囲む人々も含み、全登場人物にそれぞれの葛藤、悲哀、秘密があると考えた。「全員が変わり者ですが、単に刺激や衝撃を与えるためだけのダークな場面はありません。マーティンの物語で好きなところの一つは悪意がないところです。登場人物には信じられないほどねじ曲がって残忍な人もいたりしますし、顔面蒼白になるような事件も起きたりしますが、脚本家や俳優、監督にも、悪意を感じることは決してありません」。
彼が演じたパードリックについても「気のいい男です。難しいことは考えない善人で、深くものごとを考えません。ペットにちゃんとエサをやれて、毎日友人のコルムとビールを飲みながらおしゃべりできる小銭さえあれば幸せなのです。それが叶えば、パードリックの人生は安泰なのです」と捉えた。
しかし、コルムがパードリックに絶交を言い渡すと、彼は悲しみと孤独の淵に落ち、そして怒りの炎を燃やす。「パードリックの純真さが失われることが、本作の一番悲しい部分です。パードリックの心は引き裂かれ、かつての幸せだった姿は、遠くに消えてしまいます」。
「ブレンダンはいつも深く考え、大きな疑問を自分に投げかけています」
コルム役のグリーソンとファレルは、同じダブリン出身だ。2人はマクドナー監督作『ヒットマンズ・レクイエム』(08)でも共演しており、ファレルは彼のことを、心からリスペクトしている。「私はブレンダンのことが好きです。活動的で、積極的で、聡明で、誠実で、たくましく、繊細なところもあり、本当にいろいろな顔を見せます。感情の振れ幅の大きさは驚異的で、優しさを漂わせていたと思うと、神のような激怒の雷を落とすこともできます。いつも深く考え、大きな疑問を自分に投げかけています」。
グリーソンが演じるコルムの音楽家としてのジレンマは、パードリックの妹シボーンにも投影される。シボーンの日々は読書、料理、孤独に費やされていて、コルムの葛藤はシボーンが5年後に味わうものを表しているのかもしれない。「コルムはとっくの昔に島を出るべきだったのかもしれません。同じことが繰り返される毎日の単調さに嫌気がさしたのかもしれません」。