是枝裕和監督と坂元裕二の特別講義をフルボリュームでレポート。『怪物』が生まれた経緯から脚本の構造、解釈までを語り尽くす - 5ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
是枝裕和監督と坂元裕二の特別講義をフルボリュームでレポート。『怪物』が生まれた経緯から脚本の構造、解釈までを語り尽くす

イベント

是枝裕和監督と坂元裕二の特別講義をフルボリュームでレポート。『怪物』が生まれた経緯から脚本の構造、解釈までを語り尽くす

「『羅生門』構造というよりは、“坂元裕二構造”」(是枝裕和)

坂元「3部構成になっているから黒澤明監督の『羅生門』を引き合いに出される。当初から打ち合わせでも話していたのですが、『羅生門』は話者によって話が変わっていく、人の話は当てにならないという話ですが、『怪物』は一つのファクトが視点によって変わっていくという話なので、似てるところもあれば違うところもある。どちらかと言えば、リドリー・スコット監督の『最後の決闘裁判』の方が近いかなという気もします」

是枝「先ほどの『Mother』の話にもありましたが、坂元さんは連ドラでも突然視点を変えて掘り下げて、別の角度から語り直す。それを今回は一本の映画のなかでされていたのかなとも思います。だから『羅生門』構造というよりは、“坂元裕二構造”なのでしょう」

シングルマザーを描くことも坂元作品の特徴のひとつ
シングルマザーを描くことも坂元作品の特徴のひとつ[c]2023「怪物」製作委員会

坂元「ちょっとした話ですが、ところどころ是枝監督のアイデアで足された台詞があって、それがどれもすばらしくて、なかったら全然映画の印象が違ったのではないか感じました。ジャングルジムに登った2人が宇宙の破裂の話をして、最後に『じゃあ準備をしなきゃね』と足されている。これがあるのとないのでは映画のおもしろさが全然変わるんです。あと校長室での『神崎先生はいい先生でした』という台詞もそうです。ぜひ脚本の勉強をしている人がいたら、これについて考えてほしいです」

坂元裕二の“決定稿”を収録した『怪物』シナリオブックは発売中
坂元裕二の“決定稿”を収録した『怪物』シナリオブックは発売中著/坂元裕二 発売中 定価:1600円(税込1760円)(税込) 発行/ムービーウォーカー 発売/KADOKAWA

是枝「神崎先生のところは、校長室にいる先生のなかでも色々濃淡があるといいと思ったんです。台詞を足す必要はないとも思ったのですが、あの空間のなかでちょっとずつ足していった演出でして、そういうのが好きなんです。自分で自分の演出を好きですというのは恥ずかしいですが(笑)」

坂元「是枝さんは脚本について注文をせずに、『ここがいいよね』とお手紙をくださったんです。意地悪な見方をすると、掌の上に乗せられている気分ですね。『ここを直せ』と揚げ足を取ることは誰でもできますが、是枝さんの場合は『ちょっとここに塩を入れればいいんだよ』みたいな感じで、こちらも『あ、美味い!』となってしまうような…(笑)。そういうのがすごいと思うんです。

よく是枝さんを語る時に、ドキュメンタリータッチだとか、即興演出の人だと言われていると思いますが、僕は是枝さんほど日本一脚本が上手い映画監督はいないと思っています。何冊か脚本を読ませてもらったことがあるんですが、セットアップがあって、3幕構成で、ミッドポイントがあって…と、いわゆるハリウッド脚本術のような教科書に書いてあることがしっかり踏襲されている。現場で作られるにしても前もって書いてあるにしても、こんなにしっかりしている脚本はあまりないと思います」

イベントの最後には、2人に花束が贈られた
イベントの最後には、2人に花束が贈られた


是枝「ありがとうございます(照笑)。よくドキュメンタリータッチとか自然とか言われますけど、たぶん映画で観て自然だと思われることほど裏ではとても不自然なことをやらないと自然に映らないんですよね。役者も子どもたちも、自然に見えるのはしっかり演じてくれているから。好きにしていいと言って自然に見えるかと言えば、それは絶対にないんです」

取材・文/久保田 和馬

『怪物』みたいのだーれだ【PR】
作品情報へ

関連作品

  • 怪物

    4.3
    7033
    『万引き家族』の是枝裕和監督と『花束みたいな恋をした』の脚本家・坂元裕二のオリジナル作品
    U-NEXT