ヒーローたちのマスクは硬い?柔らかい?造形美術監督がフラッシュ、バットマンのコスチュームのこだわりを明かす
スピードを武器に"時間"も"世界"も超える地上最速ヒーロー、フラッシュが、過去を改変してしまったことで巻き起こる地球存亡の危機に立ち向かうタイムループ・アドベンチャー『ザ・フラッシュ』が公開中だ。時空を超え、フラッシュ、バットマン、スーパーガールなどDCヒーローたちが交錯する本作を筆頭に、ヒーロー映画に欠かせないのがコスチューム。能力から性格、立ち位置までキャラクターを反映したマスクやスーツは、ヒーローたちのアイデンティティそのものと言える。そこで本作でフラッシュやバットマンたちのコスチュームを監修した造形美術監督ピエール・ボハナにコスチューム視点で見たポイントや映画の見どころを聞いた。
ピエール・ボハナは英国ロンドンを拠点にワールドワイドに活躍している造形美術監督。『タイタニック』(97)や『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(19)、「ハリー・ポッター」「ファンタスティック・ビースト」シリーズの「魔法ワールド」などの名作で小道具など美術を手掛けてきた造形のエキスパートだ。コスチュームの制作&監修としても、『ダークナイト』(08)や『ジャスティス・リーグ』(17)、『ワンダーウーマン 1984』(20)、『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(22)など多くのDC作品で活躍。本作ではマスクのデザインやコスチューム部門のリーダーを務めている。そんなボハナが『ザ・フラッシュ』公開にあたり、映画で使われたマスクを持って来日。フラッシュと、ベン・アフレック版&マイケル・キートン版の両バットマンのマスクを前にインタビューを行った。
「今回のフラッシュスーツはウェイン産業製」
“深紅のスピードスター”のニックネームを持つフラッシュのトレードマークが、真っ赤な強化スーツ。本作のスーツは、テレビシリーズや『ジャスティ・リーグ』などこれまでフラッシュが登場した過去の作品とは、また違うデザインになっている。「これまでの作品で、フラッシュのスーツのイメージはだいたい固まっていると思います。それをベースに、監督やデザイナーたちと機能面を含め今回の映画にふさわしいスーツを模索しました」と振返る。
本作のフラッシュスーツのキーワードが「ウェイン産業」だ。「今回のスーツは、バットマンことブルース・ウェイン率いるウェイン産業が開発したという設定です。フラッシュはものすごいエネルギーのなかを猛スピードで動き回るので、普通のスーツでは摩擦で燃え尽きてしまいます。過酷な状況に耐えうる複雑な構造であることを、視覚的にどう表現するかがテーマでした」。そのため質感や細部の構造は、フラッシュことバリー・アレンのお手製だった『ジャスティス・リーグ』のコスチュームから一新された。「バットスーツを生みだしたウェイン産業製ですから、手作り感満点の前回とは雲泥の差(笑)。特に大きなポイントはジェルのコーティングをした光沢のある外装で、映画を観ても重層的に細かく作られているのがわかるでしょう。見た目のよさだけでなく、工学的にも正しく感じられる表現を心掛けました」。
実際のマスクの外観は、クリアの外装も手伝ってまるで磨き上げたバイクやスポーツカーのボディ。ところが実際にさわってみると、ペットボトルでおなじみのポリエステル樹脂のような質感で、そのギャップに驚かされた。「実は柔らかいんですよ」と笑いながらボハナは「柔軟性ある樹脂を使っているので見た目と違って硬くないんです。こうすることでマスクをつけた時のフィット感が違います。撮影のための実用性もマスクやスーツの大切な要素です」と明かしてくれた。なおマスクは着脱のため後頭部にベルクロによる開閉口が隠されている。