満場の観客から拍手喝采!『エゴイスト』鈴木亮平と松永大司監督がニューヨークの地で語った、力強い決意と友情
上映後に行われた質疑応答では、日本映画におけるLGBTQ+表現や役作りに関する質問が多く寄せられた。すべて英語で質問に答えた鈴木は、ゲイの雑誌編集者である浩輔役を当事者ではない役者が演じる決断について、様々な葛藤があったことを認めた。「当事者による表象はとても重要だと認識しているので、この役を引き受けるかどうか、かなり悩みました。インターネットで検索してみると、当時日本でゲイを公言している俳優は見当たりませんでした。同時に、とても悲しくなりました。日本では、まだ俳優が自分の性的趣向をカミングアウトするのに大きなリスクが伴うということだからです。そして、いまいる場所から始めなくてはいけないと思いました。最も重要なことは、『エゴイスト』のようなクイア映画をもっと作ることで、僕たちの社会と業界が前進できるようにすることです。この映画の主役2人を演じているのは異性愛者の俳優で、当事者による表象という意味では100%完璧ではないかもしれません。しかし僕たち俳優は、このような役を演じるのであれば、100%積極的に関わり、100%尊重し、100%自分のキャラクターとゲイコミュニティに責任を持ちたいと考えました。当時の日本の映画業界でできることのすべてをやり遂げ、この映画を作れたことをとても誇りに思っています。なぜなら、これは日本映画が前進するための大きな一歩になったといまでも信じているからです」と一気に述べると、会場から大きな拍手が送られた。
松永監督は、できるだけ適切な表象を映画に持ち込むために、LGBTQ+インクルーシブ・ディレクターのミヤタ廉氏に脚本の段階から参加してもらい、性的マイノリティに関するセリフ、キャスティングなどの監修を、インティマシー・コレオグラファーのSeigo氏に性的なシーンにおける動きや所作の監修をお願いしたと語る。それが最も現れているのが、浩輔が気のおけない友人たちと余暇を楽しむシーンで、友人役の多くはプロフェッショナルな俳優ではなく、即興演技も多いのだという。俳優同様、松永監督にとっても未知の領域で映画を作ることは不安もあった。「自信がないことが良いことだと思っています。この題材を描くことの恐さを知っているから、ミヤタさんやSeigoさん、すべてのスタッフと一緒に作らないとできないと思うから、作れたんだと思います。もし自信を持っていたら、僕は違うものを作ってしまったかもしれない。だから、『怖い、自信がない』というのは始まりとしては大切なことだと思います」と、多くの人々と手探りで作品を作り上げたと語った。
実は、鈴木と松永大司監督は、彼らが二十代前半のころからの友人だという。「僕が22歳で、監督は27歳くらいの時だったと思います。バイト先が一緒で、いつか映画を撮ろうと約束したんです。もっと早く実現するかと思っていましたが18年経って、こうしてNYで隣に座っているなんて感慨深いですね」と鈴木が言うと、松永監督は「本当にうれしいですね。『いつか俳優になりたい、いつか監督になりたい』と話していた2人がやっと一緒に映画を作ることになって、クランクイン前日に亮平にそれを伝えようとしたんですが、これから撮影が始まる大切な時期だからぐっと堪えたんです。撮影初日、ファーストシーンの撮影の段取りをやっているときに亮平が寄ってきて『あの時のこと覚えてますか?俺たち、やりましたね』と囁いてきて(笑)。うれしいけど、これから大変なことがいっぱいあるのによくそんなセンチメンタルなこと言ってられるなあ、と思わず笑ってしまいました」と2人の友情を表すようなエピソードを共有してくれた。
質疑応答を終えて舞台を去る際、鈴木は「今夜は遅くまでどうもありがとうございました。もしもキャスティング・ディレクターの方がこの会場にいらっしゃったら、この後お会いしましょう!」と、ジョークを交えて世界の舞台に立つ準備ができていることを表明した。鈴木の出演作をずっと上映してきたNYAFFと世界中の観客は、彼が満を辞して大海に船出する日を心待ちにしている。
取材・文/平井伊都子