黒澤明版へのオマージュも?宮藤官九郎監督作「季節のない街」は“街”のセットに注目
宮藤官九郎が企画、監督、脚本を務めるディズニープラス独占配信ドラマ「季節のない街」が全10話配信中だ。宮藤が長年温めてきた企画で、山本周五郎の小説「季節のない街」の映像化作品である本作は、黒澤明監督によって『どですかでん』のタイトルで映画化され、1970年に公開されたことでも知られる不朽の名作。この傑作小説をベースに、舞台を12年前に起きた“ナニ”の災害を経て建てられた仮設住宅のある「街」へ置き換え、現代の物語として再構築している。希望を失いこの「街」にやってきた主人公半助こと田中新助(池松壮亮)が、住人たちの姿に希望をみつけ、人生を再生していく青春群像エンタテインメントとして描く。
キャスト陣には宮藤組初参加となる池松や、半助を街の青年部に引き入れるタツヤを仲野太賀、タツヤと同じく青年部のメンバーで酒屋の息子、オカベを渡辺大知が演じ、三浦透子、濱田岳、片桐はいり、又吉直樹、前田敦子、塚地武雅、藤井隆など、宮藤組の常連から初出演の俳優まで超豪華俳優が大集合。見どころ満載の本作だが、ここではその舞台となる「街」のセットに注目したい。
『どですかでん』とのつながりも?カラフルな彩りの“仮設の街”
撮影にあたり、廃校の校庭にプレハブの仮設住宅が実際に建てられたが、外側だけではなく内部もかなり丁寧に作り込まれている。本作は、個性的でワケアリな「街」の住人たちが巻き起こす日常を描いているが、その舞台となる仮設住宅にも、住人たちの個性がたっぷりと詰め込まれている。
第4話「牧歌調」では、仮設住宅の向い同士に暮らす“兄弟分”の増田家(増子直純&高橋メアリージュン)と河口家(荒川良々&MEGUMI)の夫婦が、それぞれ増田家が赤、河口家が黄色に統一された衣装に身を包んでおり、映画『どですかでん』に登場する夫婦たちも彷彿とさせる。黒澤作品のなかでも一際カラフルで異彩を放つ『どですかでん』では、夫婦が暮らす家の内装も色で分けるこだわりの美術を見ることができるが、「季節のない街」ではさらにオラオラ系の兄貴分である益夫が暮らす増田家は赤に般若の面が、おっちょこちょいでお人好しな弟分の初太郎が暮らす河口家は、黄色に気の抜けたデザインのパンダが家の扉に描かれるといった宮藤作品らしい遊び心が感じられ、家の中の小物にもよく見るとそのこだわりが反映されている。
また第1話から度々登場する見えない電車を運転する少年、六ちゃん(濱田)が母親のクニ子(片桐)と暮らす総菜屋「わんぱくデリカ」兼自宅の仮設には、六ちゃんが幼い頃に描いたであろう電車のイラストや手作りの電車の運転席など、四六時中電車のことを考えている六ちゃんらしいアイディアが詰め込まれている。特に外壁に黄色と青で大きく描かれた電車のイラストは、電車が走っていない「街」の中で最も象徴的な場所として作品に登場している。
イチから作ったからこそ込められたこだわりと遊び心が感じられる「街」を舞台にした、最低で最高の青春群像エンタテインメント。物語とあわせて、ぜひセットにも注目しながら楽しんでみてほしい。
文/山崎伸子