隅田川テラス、ビルの隙間から見える花火…『こんにちは、母さん』に映しだされた、墨田区ロケの撮影秘話
「タイトなスケジュールで撮影希望が届くことも多いので、条件を詰めるための時間がたくさん取れたことはすごく大きかった」(関根)
――なかでも調整が難しかった撮影場所を教えてください。
深澤「言問橋での撮影です。最初は公園がある位置からクレーンで撮影したいという要望がありましたが、道路の管轄は警察なので、管轄が変わると私たちの立場からアドバイスできることがなくなってしまいます。理想に近づくやり方が見いだせるのかなど、道路公園課さんや観光課さんからも助言をいただきながら、制作部の方と具体的な調整を進めることができたのもすごくよかったと思っています」
関根「時間に余裕があったのもポイントですね。最初にご相談いただいたのが(2022年の)7月でした。撮影は10月に行われたので準備期間が3か月はありました。ドラマなどでは条件を詰める時間もないほどタイトなスケジュールで撮影希望が届くことも多いので、条件を詰めるための時間がたくさん取れたことはすごく大きかったと思います。8月、9月のロケハンには山田監督もいらっしゃって準備を進めていたようです」
深澤「舞台は墨田区ですし、実際に墨田区で撮影しているのですが、場所ごとに管轄が違うというのが調整のうえで大変なところです。場所によっては制作部の方が直接交渉しているところも多いです」
関根「フィルムコミッションの支援作品として、書類上承認している場所というのは実は隅田川テラスを含めて2、3か所になります。店舗での撮影も多いので、制作部のほうで交渉されていました」
矢田「撮影に立ち合った観光課の担当者からは、東京ロケーションボックスさんからの助言をたくさんいただいたと聞いています。交渉にはどんな人が行くのがいいのか、そんなところまで細かくお話しながらやっていたので、多くの関係者が関わって完成した映画なのかなと思っています」
「ビルの隙間から見える花火には“墨田区をわかってくれている感”があってうれしくなりました」(矢田)
――東京ロケーションボックスの助言が特に役立った撮影場所はどこでしょうか?
矢田「隅田川テラスでしたよね?」
深澤「過去の凡例などを出していただいて、このパターンならこんなふうに進めればいいといったアドバイスをいただきました。先ほどのお話にもあったように土木管理課など多くの関係者を巻き込んだことが、規模感的にも墨田区としても初めての試みだったそうです。それが地域の方々からのご協力にもつながったと思います。それは出来上がった映画を観て実感した部分でもあります」
――こんな場所でもロケをしたのか、といったことでしょうか?
深澤「その通りです。主人公である昭夫の実家の足袋屋として登場する向島の『めうがや』さんや、昭夫の母、福江が通う墨田聖書教会などはフィルムコミッションの管轄ではないので、映像で初めて知ったロケ場所でした。墨田区の自然な状態が映っている、それが最初に映像を観た時の感想です。東京の下町に住む家族の話に、墨田区の様々なスポットがエピソード的に入っているという印象を受けました」
関根「私はまだ完成した映画を観られていないのですが、自分が立ち会った場所がどんなふうに映っているのかも楽しみですし、いまの深澤さんのお話を聞いて、『こんな場所も!』という発見ができる楽しみも増えました」
矢田「私は墨田区出身なので、コロナ禍もあって中止されていた花火大会の映像が観られたことにも『うわーっ!!』ってなりましたし、ビルの隙間から見える花火には“墨田区をわかってくれている感”があってうれしくなりました。自然が多く、視界が開けた場所で見る花火とはひと味違う、隅田川の花火大会らしさが出ていたシーンです。もう一つ、印象的だったのは言問橋のシーン。田中泯さんが演じるホームレスの男性が東京大空襲の恐怖を大声で叫んでいて、一見すると普通の橋ですが、過去にあった出来事を忘れてはいけない場所だと改めて考えさせられました。墨田区の歴史に触れる描き方も含めて、区役所内では墨田区のプロモーション映像みたいだね、という話が出るくらい印象的な映画です。だからこそ逆に、墨田区にゆかりのない方が観たらどう思うのかなと、感想が気になります」