今後のアワードシーズン、映画界を賑わす作品は?『君たちはどう生きるか』など日本作品も多数出品した第48回トロント国際映画祭を振り返る
第81回ゴールデン・グローブ賞のノミネート発表を12月1日に控え、映画賞シーズンはますます佳境に。9月7日から17日までカナダのトロントで行われていた第48回トロント国際映画祭が閉幕。毎年、映画賞レースの行方を占ううえで重要とされる観客賞(People’s Choice Award)は、ジェフリー・ライト主演の社会風刺コメディ『American Fiction』、次点にアレクサンダー・ペイン監督の『The Holdovers』、次点2位に宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(公開中)が選ばれた。
今年のトロント国際映画祭は、宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』で開幕。アニメーション映画としても邦画としても初の選出で、プレミア前の映画紹介をジブリとつながりの深いギレルモ・デル・トロ監督が務め、「あなた方は、日本以外で初めてこの映画を観るとても幸運な方達です」とチケット争奪戦を勝ち抜き、プレミアに参加した観客の期待を高めた。上映にはスタジオジブリ執行役員の西岡純一も出席、レッドカーペットで受けた地元テレビ局のインタビューで宮崎駿監督引退作との報道を否定し、「新しい企画を持って毎日スタジオに来ている」と明かした。プレミア後のレセプションで西岡氏は「本当に毎日スタジオに来ていますよ。宮崎さんくらいの年代では、周りの方々がだんだんといなくなるなか、スタジオに来れば変わらずに仲間がいることが、ある種の安らぎになっているんだと思います」と、世界中のジブリファンが歓喜したニュースを再肯定していた。映画祭のメイン会場周辺では、『君たちはどう生きるか』のファンアートのライブペインティングや、ジブリグッズを売るポップアップストアが登場。ストアには連日多くの人が行列を作っていて、スタジオジブリの世界的人気を目の当たりにした。
そのほかにも、今年は日本作品が多く上映された。トロント映画際の直前に行われた第80回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞したばかりの濱口竜介監督の『悪は存在しない』(2024年公開)、同じくヴェネチア国際映画祭でプレミアが行われた塚本晋也監督の『ほかげ』(11月25日公開)と空音央監督による故坂本龍一のドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto | Opus』、5月の第76回カンヌ国際映画祭で坂元裕二が脚本賞を受賞した是枝裕和監督作『怪物』(23)と、役所広司が男優賞を受賞したヴィム・ヴェンダース監督による『PERFECT DAYS』(12月22日公開)、そして前作『コンプリシティ/優しい共犯』(18)もトロントでプレミアが行われた近浦啓監督の『大いなる不在』(2024年公開)が上映された。
また、日本関連作品としては、日本のテレビ番組「進ぬ!電波少年」の企画で懸賞生活を送った「なすび」こと浜津智明さんのその後の人生を描くドキュメンタリー『The Contestant』も上映されている。今作の監督はイギリスでドキュメンタリー作品を作ってきたクレア・ティトリー氏。プロデューサーには、ジャニーズ事務所が抱える問題を明らかにしたBBCのドキュメンタリーを手掛けたメグミ・インマン氏が名を連ねている。今作の3回の上映はすべてチケット完売で、当日券販売にも長蛇の列ができていた。トロントの観客にもこれだけ注目を集めた作品だけに、今後の映画祭上映や各国配給が期待されている。