『アメリカン・スナイパー』や「ガールズ&パンツァー」に通じる要素も!?絶体絶命の状況を覆す『カンダハル -突破せよ-』のおもしろさ

コラム

『アメリカン・スナイパー』や「ガールズ&パンツァー」に通じる要素も!?絶体絶命の状況を覆す『カンダハル -突破せよ-』のおもしろさ

『西部戦線異状なし』を思わせる無慈悲に命が奪われる“戦争の悲惨さ”

とはいえ、『カンダハル -突破せよ-』は単にヒロイックな戦闘アクションではない。戦争がもたらした生々しい傷痕を見据えており、平和の重要性もしっかりと訴えている。トムはアフガニスタンからの脱出任務に臨む一方で、イランでのミッションの仲間や、古くからの盟友の死に直面することになる。ミッションに伴う犠牲ではあるが、やりきれない気持ちは隠せない。また、彼と行動を共にするモー(ナヴィド・ネガーバン)も、戦争で最愛の息子を失ったという悲痛な過去があり、深い悲しみから抜け出すことができない。戦争には、このような無慈悲な死別がつきものだ。

市街地でも激しい戦闘が行われる(『カンダハル -突破せよ-』)
市街地でも激しい戦闘が行われる(『カンダハル -突破せよ-』)[c]2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

戦争の悲惨さにフォーカスした作品では、第96回アカデミー賞で9部門にノミネートされ、国際長編映画賞など4部門に輝いたドイツ映画『西部戦線異状なし』(22)が記憶に新しい。第一次世界大戦の惨状を若いドイツ兵の立場から見つめた本作。死んでいく者は常に最前線に置かれた末端の兵士で、仲間の死を目の当たりにするのは日常茶飯事だ。時には無能な、もしくは非情な上層部の判断ミスにより命を落とすこともある。

第一次世界大戦を題材に戦争の悲惨さを描く『西部戦線異状なし』
第一次世界大戦を題材に戦争の悲惨さを描く『西部戦線異状なし』[c]Everett Collection/AFLO

『カンダハル -突破せよ-』で最前線に立つトムも、上層部に捨て駒にされかねない立場にあり、それは戦争の非人間性を生々しく伝えている。このような戦時における人命の軽さは、すべての戦争映画に宿っているといっても過言ではなく、ソマリアでの軍事作戦中に暴徒化した民衆に包囲されてしまった米軍の惨状を描く『ブラックホーク・ダウン』(01)をはじめとする作品が思い起こされるだろう。

ソマリアでの軍事作戦中にヘリが撃墜され、数十人の米軍兵士が武装した民衆からの攻撃を受ける『ブラックホーク・ダウン』
ソマリアでの軍事作戦中にヘリが撃墜され、数十人の米軍兵士が武装した民衆からの攻撃を受ける『ブラックホーク・ダウン』[c]Everett Collection/AFLO

危機的状況を的確な判断と勇気で切り抜けていく「ガールズ&パンツァー」のようなエンタメ感!

3つ目のエッセンスとして取り上げるのは、危機的状況を打開する脱出劇としてのおもしろさだ。アフガニスタンの国土は決して狭くないし、1人の人間がそこから抜け出すことにはとてつもない危険が伴う。敵がどこに待ち受けているのかわからないし、旧知の友と思われた人物も状況次第では敵に転じることもある。さらに、未知の砂漠や丘陵地帯は徒歩で進むには困難で、灼熱地獄も手伝い容赦なく体力を奪い取る。独特の気候や自然は、現地を知る者に有利に働くのだから、アウェーの立場のトムには圧倒的に不利な条件だ。それだけに、この状況をどう乗り越えるのかが本作のおもしろさとなっている。

夜の岩場で武装ヘリを迎え撃つトムたち(『カンダハル -突破せよ-』)
夜の岩場で武装ヘリを迎え撃つトムたち(『カンダハル -突破せよ-』)[c]2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

決死の覚悟で生存を図るサバイバルアクションという意味では、敵地に迷い込んでしまった兵士の奮戦を描く『エネミー・ライン』(01)や『ローン・サバイバー』(13)、麻薬カルテルの殲滅作戦中にエージェントの主人公が想定外の事態に陥ってしまう『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』(18)とも共通するところ。さらに、意外と思われるかもしれないが、最新作『ガールズ&パンツァー 最終章 第4話』(公開中)が現在公開中のアニメーション「ガールズ&パンツァー」との類似性にも言及したい。

“戦車道”と呼ばれる架空の武道を題材にした作品で、主人公の西住みほ(声:渕上舞)が牽引する大洗女子学園チームの活躍が見どころ。廃校寸前の弱小校でバラバラだったチームが、みほを中心に団結し、彼女の状況に合わせた様々な作戦や対応力を駆使して強豪校を次々と破っていく。経験豊富なトムもまた、逃走車両が追手にバレていると気づいた瞬間、すぐに近隣住民のトラックに乗り換えて方向転換。追撃してきた武装ヘリ相手にも、地形をうまく利用しながら生身で迎え撃つなど、その場その場での最善策を導き出そうとする。機転と勇気を武器に逃走を続けるそれらのアクションにハラハラさせられ、エンタメとしても楽しめる作品になっている。

カンダハルを目指すなかで、トムとモーの間には友情が芽生えていく(『カンダハル -突破せよ-』)
カンダハルを目指すなかで、トムとモーの間には友情が芽生えていく(『カンダハル -突破せよ-』)[c]2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

3つのエッセンスについて解説してきたが、本作にはほかにもドラマ的な見どころがある。娘の卒業式に出ると約束したトムの、なにがなんでも母国イギリスに帰ろうとする意志。心を通い合わせたモーを、生きてアメリカの家族のもとへと帰そうとする奮闘。家族愛や友情といった絆のドラマのエモい味わいもまた、観る者の心を引きつける重要なエッセンスだ。様々な要素が絡み合い、エキサイティングなクライマックスへと突入する『カンダハル -突破せよ-』。戦場の壮絶なドラマを、ぜひ体感してほしい。

文/有馬楽

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