あなたはどのマッツが好き?情けない中年男に、やさぐれ医師、裏社会のスキンヘッド…“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンに魅せられる10選
やさぐれ医師のマッツ/『ウィルバーの事情』
ここまでイケてない人間味あるミケルセン作品を紹介したが、彼の代名詞である“セクシー”さが再確認できるタイトルも。日本の劇場未公開、未ソフト化作品という意味でも超貴重な『ウィルバーの事情』(02)で、自殺未遂を繰り返すウィルバー(ジェイミー・サイブス)とその心優しい兄ハーバー(エイドリアン・ローリンズ)の兄弟と接する精神科医に扮している。
精神科医役と言えば「ハンニバル」を連想させられるが、ジェントルマンだったレクター博士に対し、こちらはやさぐれ医師といった風体。患者たちのグループセラピー中に煙草をふかし、仕事部屋にウイスキーを置いていてハーバーに一杯薦めるシーンも。また、後ろ髪がはねていたりと、身だしなみはあまり気にしていない様子。ただ、ガラス越しに遠くを見つめているような表情にはミケルセンらしい色気も感じられる。主役ではないものの、キャラクターが濃い人物なので、ついつい目を奪われてしまう。
危険な色香を放つ人喰い殺人鬼のマッツ/「ハンニバル」
『羊たちの沈黙』(91)などに登場した人喰い殺人鬼、ハンニバル・レクター博士の若かりしころを新たな解釈で描いていく。見どころは美食家でもあるハンニバルの調理&食事シーンで、流れる手つきで肉をさばいて加熱し、アート作品でも制作するような繊細さで盛り付けを行う。食事における所作の一つ一つも美しく、ナイフとフォークで切り分けた料理を口に運ぶ恍惚とした表情がなんとも言えない。とはいえ、食材になった肉の出どころを考えると、ハンニバルの残酷さと狂気に悪寒を感じてしまう。
もう一点、忘れてはいけないのが、連続殺人事件を追う捜査官、ウィル・グレアム(ヒュー・ダンシー)との関係性。ウィルは犯行動機や犯人の感情に共感できる特殊な能力を持っており、ハンニバルは彼の担当医として時に捜査にも協力する。しかし、それは表向きの姿であり、ウィルに屈折した興味を抱いたハンニバルは、彼を言葉巧みに誘導して精神的にも追い詰めていく。おもしろいのが、2人が単なる捜査官と犯人という枠には収まらず、互いを求め合っているように見えるところ。その絆は複雑で、相手を気にかける言葉をかけ、熱い抱擁を交わす姿に興奮したファンも多いはず。
不倫の恋に溺れるマッツ/『しあわせな孤独』
『アナザーラウンド』と同じトマス・ヴィンターベア監督作『偽りなき者』(12)で、第65回カンヌ国際映画祭男優賞を受賞するなど演技力も確かなミケルセン。思いがけない出来事やトラブル、理不尽に翻弄される人物も数多く演じており、劇中で彼が体現する苦悩や葛藤も手に取るように観る者に伝わっていく。
名匠、スサンネ・ビアの『しあわせな孤独』(02)もそうした作品の一つ。自動車事故の被害に遭ったカップルと加害者夫婦の物語で、ミケルセンは車を運転していた女性の夫で医師のニルスを演じている。事故によって首から下が麻痺してしまった恋人を献身的に支えようとするセシリ(ソニア・リクター)は、自暴自棄になって心を閉ざした彼から拒絶されてしまう。そんな彼女を加害者の夫として、医師という立場からも精神的にサポートしようとするニルスだが、あろうことか2人は次第に惹かれ合い、愛し合う関係に…。
妻や子どもたちのことを愛しているが、セシリへの想いを募らせていくニルス。ダメだとわかっていても彼女との関係を続け、どんどん深みへとハマっていく。不倫を妻に疑われ、そのことを追求された際に逆ギレする姿は本当にどうしようもないが、演じているのがミケルセンなので、なんとなく見守りたい気持ちにさせられる。ちなみに、本作はデンマークにおける映画運動「ドグマ95」というヴィンターベアやラース・フォン・トリアーらが提唱した映画製作における“純潔の誓い”に則った作品で、手持ちカメラや自然光で撮影され、合成技術を使っていないのが特徴。ホームビデオ的な趣があり、ミケルセンをより身近に感じられる。
復讐に燃える西部劇のマッツ/『悪党に粛清を』
耐えるに忍びない不条理にさらされた時、人間はどのような道を選ぶのか?1870年代のアメリカが舞台の西部劇『悪党に粛清を』(14)では、愛する者を奪われた男の復讐劇が描かれる。元兵士のジョン(ミケルセン)は新天地アメリカでの生活の基盤を整え、故郷のデンマークから妻子を呼び寄せる。再会の喜びもつかの間、家族が乗っていた駅馬車に2人のならず者が強引に上がり込み、妻と幼い息子を殺されてしまう。怒りに燃えるジョンは犯人をすぐに撃ち殺す。しかし、犯人の一人が暴力で街を支配する悪名高い有力者の弟だったため、ジョンは命を狙われる身となってしまう。
北欧産西部劇という珍しいジャンルだが、その内容は血で血を洗う抗争が展開されるマカロニ・ウエスタンそのもの。捕まったジョンが拷問にさらされる姿は目を覆いたくなるが、クライマックスでの大勢の敵を手にしたショットガンで次々と撃ち倒していくガンアクションは圧巻!『007 カジノ・ロワイヤル』で共演したエヴァ・グリーン、「ウォーキング・デッド」のジェフリー・ディーン・モーガン、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのジョナサン・プライスと共演キャストも豪華で見応えある作品になっている。
【スターチャンネル 放送情報】(全10作品)
[STAR1 字幕版]11月13日(月)~11月22日(水) 21:00頃 10日連続放送
[STAR1 字幕版]11月25日(土)~11月26日(日) 10:30頃~ 2日連続放送
北欧の至宝 マッツ・ミケルセン生誕祭