あなたはどのマッツが好き?情けない中年男に、やさぐれ医師、裏社会のスキンヘッド…“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンに魅せられる10選
不正を許せない中世の騎士なマッツ/『バトル・オブ・ライジング』
16世紀のフランスに実在したハンス・コールハースの闘いを映画化した歴史劇『バトル・オブ・ライジング』(13)も復讐がテーマになっている。馬商人のコールハース(ミケルセン)が手塩に掛けて育てた馬を売りに行く道中、ある土地を治める男爵の部下から通行証を求められ、持っていなかった彼は担保として2頭の馬を預けることにする。しかし、通行証はすでに廃止されていて男爵たちの嘘だった。しかも、預けた馬たちは虐待され、商品としての価値はないも同然。不正が許せないコールハースは賠償を求め、裁判所に何度も訴状を送るが、男爵には宮廷に親類がおり訴えは退けられてしまう。不幸は重なり、訴状を届けにいった妻も取り巻きによる暴力で命を落とすことに。あまりの理不尽さに耐え兼ねた彼は仲間を集めて武装蜂起する。
権力に立ち向かうコールハースのもとには同じような目に遭った人たちが集まり、その規模は400人ほどの軍勢に。世間から英雄視されるが、取り逃がした男爵を捕まえるために街を焼き払う暴挙にも出るなど、その活動には疑問を感じるところも。物語の中盤、ドニ・ラヴァン演じる尊敬する聖職者から反乱を咎められ、復讐と正義、良心の呵責との間で激しく葛藤するコールハースの姿が印象的だ。最後の結末も含めて、正義とその在り方、行動による結果と責任ついても考えさせられる。
マッチョな軍人のマッツ/『ライダーズ・オブ・ジャスティス』
『アナザーラウンド』と同時期にデンマークで公開され、同作を超える国内で2020年No.1のオープニング成績を記録した『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(20)。列車事故で妻を失った軍人のマークス(ミケルセン)は、同じ電車に乗っていた数学者のオットー(ニコライ・リー・コース)から事故に犯罪組織“ライダーズ・オブ・ジャスティス”がかかわっている可能性を聞かされる。復讐心をたぎらせるマークスは、オットーや彼の友人たちと共に組織への粛清計画を実行する。
ストーリーを追うとシリアスなクライムサスペンスを想像させられ、実際にそういう要素もあるが、監督が『アダムズ・アップル』(05)ほかブラックコメディでミケルセンと何度も組んできたアナス・トマス・イェンセンなだけあって、その中身はかなりシュールだ。銃器の扱いに慣れ、口よりも手がすぐに出るタイプのマークスに対し、オットーたちほかのメンバーは理系出身で暴力とは無縁。マークスの家で彼の娘も一緒に共同生活を送り、あたふたしながら銃の訓練に取り組む様子などはユーモラスで笑わせてくれる。その一方で、マーカスは最愛の妻を失った悲しみを復讐に身を投じることでかき消している節があり、犯罪グループへの粛清が実行されるのと反比例して痛々しい。やがて、その苦しみに耐え切れなくなった彼は激しく慟哭する。つらいことがあった時、一人で抱え込むのではなく、誰かに救いを求め、苦しみを共有することの大切さを教えてくれる。
極寒のサバイバルを体現するマッツ/『残された者-北の極地-』
配信にラインナップされていない放送のみのミケルセン作品からも1本オススメしたい。平均気温マイナス30度というアイスランドの過酷な環境下で撮影された『残された者-北の極地-』(18)で、極寒の北極圏に取り残された男のなんとしても生きようとする心の強さを熱演している。飛行機事故で北極圏の雪原に不時着し、たった一人で救助を待つ日々を送っていたオボァガード(ミケルセン)。ついにヘリコプターが現れたと思った矢先、強風によってヘリは墜落し、乗っていた女性パイロットが大怪我を負ってしまう。瀕死の彼女を救うには、遠く離れた基地まで何日も歩かなければならず命の保証はない。覚悟を決めたオボァガードは女性をソリに乗せ、ゆっくりと雪原を進み始める。
本作の見どころはなんと言っても、ほぼ全編を通してミケルセンの一人芝居を眺められるということ。故障した飛行機の中で寝泊まりし、食料を確保し、救難信号を送り続けるルーティンをこなす序盤。女性パイロットと出会ってからは、どこまでも続く一面の銀世界をひたすらに歩き、猛吹雪に耐え、シロクマの脅威にも立ち向かう。セリフはほとんどないに等しいが、何度も折れそうになる心をなんとか奮い立たせ、孤独な闘いを続けるオボァガードの心情を目や表情の変化、重そうな手足の動きで表現するミケルセンはとにかく見事。観ている側もついつい体に力が入ってしまう。
スター性だけじゃない、“俳優”マッツ・ミケルセンの歴史と凄みが実感できる今回の「北欧の至宝 マッツ・ミケルセン生誕祭」。イケてない役、ダメ人間の役、道徳的にアウトな役などなど…どんな人物を演じていても、どこか愛さずにはいられない不思議な魅力にあふれている。さらにミケルセンの虜になること間違いなしなので、ぜひこれらの作品をチェックしてほしい!
文/平尾嘉浩
【スターチャンネル 放送情報】(全10作品)
[STAR1 字幕版]11月13日(月)~11月22日(水) 21:00頃 10日連続放送
[STAR1 字幕版]11月25日(土)~11月26日(日) 10:30頃~ 2日連続放送
北欧の至宝 マッツ・ミケルセン生誕祭