インパクトだけでなく文化的な背景も!?『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』人物&衣装デザインの秘密を大公開
関西の主要キャラクターたちは、衣装もキャラも強すぎる!
まずは、和歌山の海岸に漂着した麗が運命的な出会いを果たす“滋賀のオスカル”こと桔梗魁。近江が栄えていた戦国時代の南蛮渡米文化をイメージした衣装をまとい、麗と生理的に惹かれあう感覚が麗と同じ髪色である“紫”という色彩によって表現。しかもケープのようなショートマントは麗のロングマントと同じ文脈にあり、ブラウスのフリルは百美のリボンの引用。3人の“三角関係”が衣装によってあらわされている。
この桔梗魁を演じた杏は、柘植のデザインに加えて、かつて近江を争っていた武将たちの家紋を入れたいとリクエストしたという。勲章のようなバッヂとして取り入れられたそれらは、魁を過去の栄光に固執している人物として見せるなど、美しさだけではない奥行きも生むことに。東西対決のキーパーソンとなる魁が、劇中でどんな活躍を見せているのかは、映画が始まってからのお楽しみだ。
そんな魁をはじめとした滋賀解放戦線と対立する“大阪府知事”の嘉祥寺晃(片岡愛之助)は、吉本新喜劇の池乃めだか師匠にオマージュを捧げたド派手な出立ち。前身頃がダブル、後ろ身頃がモーニングという変則的なブリティッシュスタイルは“フェイク感”を匂わせ、亀甲花菱の紋様は北近江の浅井家の家紋と同じ。柘植いわく「横溝正史的な血脈の因縁があるのかもしれませんね。あくまで妄想ですが」とのことで、そのバックグラウンドもつい想像したくなることだろう。
一方、藤原紀香演じる神戸市長は、神戸という土地柄のゴージャスさを表すかのように、名作『ティファニーで朝食を』(61)のオードリー・ヘップバーンの衣装をオマージュ。ボディラインや肌の露出を美しく見せるために何度も補正を行なうなど、本作のどの衣装よりも高い技術で作られているのだが、柘植は「クオリティを上げてゴージャスにするほど本物感から離れてヴァニティー(虚飾)が現れる皮肉があります」とも語っている。
そして川崎麻世演じる京都市長は、祇園祭の山鉾を引く人々の白装束からインスパイアされたという白い着物をまとい、武内英樹監督のアイデアでカンカン帽を採用。“洛中至上主義”を掲げる京都市長の扇子には「洛中」の文字が記されており、このデザインひとつとってもフォントからサイズ、配置まで様々な試行錯誤が重ねられている。
上映劇場や東映ONLINE STOREで販売されている劇場パンフレットにはほかにも、今作から新たに登場する登場人物たちのデザイン画と共に、それぞれのデザインの裏話が数多く掲載されている。
ほかにも美術や音楽、VFXにいたるまでスタッフたちの“茶番”ではない本気の仕事ぶりがわかる情報がぎっしり掲載されており、もちろんメインキャストや監督、原作者のインタビューから登場人物紹介、関西に馴染みのない人にとってはありがたい「よくわかる関西MAP!!」までが網羅された充実の内容となっている。映画を観たあとにパンフレットを読めば、もう一度劇場に足を運び、その緻密なこだわりぶりをスクリーンで確かめたくなることまちがいなしだ!
文/久保田 和馬
※川崎麻世の「崎」は「たつさき」