『ラスト サムライ』公開から20年!“ケン・ワタナベ”の『GODZILLA ゴジラ』、『ザ・クリエイター』へと続くハリウッド史を振り返る
ノーランの熱望を受けた『インセプション』で物語のキーマンに
こうして振り返ると、社会的なメッセージが強い作品とエンタメ作品にバランスよく出演しているのがよくわかる。たまたまそうなっただけなのだろうが、仕事を共にした監督から期待と信頼を寄せられているのは確かで、2010年にはノーラン監督との2度目のタッグとなる『インセプション』に出演した。
本作は眠っている人間の潜在意識に侵入し、アイデアを盗む産業スパイの男たちが危険なミッションに挑むSF大作。脚本も書いたノーランに「ケンをイメージしながら書いた役なんだ」と口説かれたというから、渡辺がどれだけ気に入られているのかがよくわかる。出演シーンが少なかった『バットマン ビギンズ』とは違い、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公に仕事を依頼し、行動を共にするキーマンとも言える人物に命を吹き込み、アクションにも果敢に挑戦。観る者を撹乱させる“ノーラン・ワールド”の住人に完全になりきっていた。
ハリウッド版『ゴジラ』で“怪獣王”と対峙!
このように誰もが真っ先に思い浮かべる日本人を代表する顔になった渡辺。それを象徴していたのが、2014年のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』への出演だ。本作で彼が演じた芹沢猪四郎博士はゴジラの研究者であり、理解者であるだけではなく、1954年公開の『ゴジラ』へのオマージュを感じさせる存在(同作に登場した芹沢大助博士、メガホンをとった本多猪四郎監督を連想させる役名にそれがくっきり!)。日本が誇る世界的な“カイジュウ”と対峙しても、見劣りしない日本の俳優はケン・ワタナベしかいない!この判断に異を唱える者はいないはずだし、渡辺はファンの期待を裏切ることなく、その重責を日本人にしか出し得ないゴジラを慈しむ表情で全うした。
『追憶の森』&『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で人間の生と死に向き合う
この頃の渡辺はとにかく引っ張りだこで、国内外の大作や話題作に次々に出演していた。『GODZILLA ゴジラ』と前後するように、マイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー ロストエイジ』(14)と『トランスフォーマー/最後の騎士王』(17)に二刀流の侍型オートボット、ドリフトの声で参加。イーストウッド監督の傑作西部劇を日本でリメイクした『許されざる者』(13)の主演に続き、同じく鬼才、李相日が吉田修一による問題作を映画化した『怒り』(16)にも主要人物の一人として出演し、観る者の心を鷲づかみにした。
さらに、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)、『ミルク』(08)などのガス・ヴァン・サント監督の『追憶の森』(15)も見落とすわけにはいかない。自殺の名所として知られる富士山麓の青木ヶ原樹海が舞台の本作で渡辺が演じたのは、死に場所を求めてそこにやってきたアメリカ人男性アーサーが出会う日本人のタクミ。同じように死のうとして森に入ったものの、考え直し、妻子の元へ戻ろうとする彼は、ケガを負い、助けを求めたアーサーに影響を与える重要な役どころだった。
決してバジェットの大きな作品ではないが、『ダラス・バイヤーズクラブ』(13)でアカデミー賞主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒーがアーサーを演じ、『21グラム』(03)、『キング・コング』(05)などのナオミ・ワッツも参加し、人間の生と死の問題に真摯に向き合うヒューマンなテーマもあって国内外で話題に。大作だけではなく、こうした社会的意義のある作品にも前のめりで参加するところに、渡辺謙という俳優のスタンスを感じ取ることができる。
そして、芹沢博士役を続投した『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(19)のクライマックス…。ゴジラに急接近した芹沢博士が最後に取る決死の行動は、そんな渡辺が魂を込めて演じたからこそ説得力があった。博士の最後の言葉も、「最後は母国語の日本語で言うに決まっている」という彼のアイデアを採用したもの。それが功を奏し、悲壮感と迫真が入り混じったリアルな言葉になっていた。