長~い作品も“安心して”堪能!年末年始にゆっくり向き合いたい、長尺名作のススメ
感動や興奮をリピート!体感時間の変化にも注目
もうひとつ、配信の影響で考えられるのは、劇場公開との“差別化”。新型コロナウイルスのパンデミックによって、映画を配信で観る人が急増。劇場側としては、自宅などでは味わえないスケールや興奮を届ける作品を望むようになり、“どうせ劇場に足を運ぶなら、じっくり楽しめるものを”という考えから、アクション大作も長編化の傾向になった。
代表的なのが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。上映時間は192分。13年前の前作『アバター』の162分を大きく上回ったが、惑星パンドラの世界観、とくに水の中に没入できる特別な体験は、短い上映時間ではもったいないかもしれない。『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』もシリーズ最長の164分だが、要所にアクションの見せ場が配置され、観ていて飽きない構成。マーベル作品も、多数のキャラが集結する『アベンジャーズ』関連はともかく、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォオーエバー』の161分のように各作品で長編化の傾向が濃厚。長大な作品はどのようなスタイルで作ればいいか。最近は、そのコツをつかんだ監督も多く、以前よりも観やすい設計になっているのは事実だ。現在、劇場公開中の『ハンガー・ゲーム0』は、大ヒットシリーズの原点を描く物語だが、これもシリーズ最長の157分である。
こうした長編化の流れは、配信会社ではないメジャースタジオも受け入れるようになり、とくに巨匠と呼ばれる監督の新作は軒並み上映時間が長いものが目立つ。スティーヴン・スピルバーグ監督が自身の生い立ちを振り返った、彼の記念碑的作品『フェイブルマンズ』は151分。『ラ・ラ・ランド』でトップ監督になったデイミアン・チャゼルが、1920年代のハリウッド黄金期のセンセーショナルな裏側に肉薄した『バビロン』は189分。どちらも映画の歴史に重要なトピックを、後世に“残したい”という巨匠の思いが詰まっており、映画ファンには上映時間の長さが気にならないはず。
また、カリスマ指揮者の素顔をじっくりとあぶり出し、終盤の思わぬエモーションを導く『TAR/ター』(159分)のように、シンプルに上映時間の長さが意味をもつ傑作も増えているし、今後も、ようやく日本での公開が決まった『オッペンハイマー』(180分)のように長尺の必見作が続く。
ただ、このような映画の長編化で、多くの人が気にしてしまうのは、劇場で観る際のトイレ問題。『風と共に去りぬ』や『七人の侍』の時代は、途中で休憩(インターミッション)が入ったが、現在は基本的にぶっとおしで上映される。ゆえに劇場での鑑賞を敬遠してしまう人も一定数いる。そんな人たちには配信がうってつけで、ゆっくり時間がとれる年末年始は、長尺の名作を“安心して”堪能するうえで最適。もちろんすでに劇場で観て、感動や興奮をリピートしたい人にもオススメの時期だ。2度目の鑑賞では、なぜか体感時間がさらに短くなるのも、名作の証明だと実感できるはず!
文/斉藤博昭