「ダークナイト」トリロジーから『インセプション』、『オッペンハイマー』へ!クリストファー・ノーランとのコラボで振り返るキリアン・マーフィーの歩み
『インセプション』で父親への劣等感を抱える御曹司役を好演
『ダークナイト』を完成させたノーランは、相手の潜在意識に潜入し情報を操作するスパイチームの物語『インセプション』(10)に着手する。ここでマーフィーが演じたのは、チームリーダーのコブ(レオナルド・ディカプリオ)らがターゲットにするエネルギー企業の御曹司ロバート・フィッシャー。コブたちは、世界のエネルギーを牛耳ろうとする彼らをくい止めようと画策する。ロバートは父の病死により繰り上げ式にトップになった二代目で、厳格な父親に劣等感を抱いてきた。亡き妻への思いを引きずるコブと共に本作の感情面のキーマンで、マーフィーは不安定なロバートを好演し重責を果たした。劇中でロバートが幼少期に父と一緒に写った写真が出てくるが、若き日の父親もメイクをしたマーフィーが演じている。なお本作の制作中、ノーランは闘病中だった父との死別という不幸に見舞われた。偶然ながらマーフィーは、ノーランの実体験を役で演じることになったのだ。
すっかりノーラン組の一員になったマーフィーは、監督作だけでなくノーランのプロデュース作『トランセンデンス』(14)にも出演した。本作は「ダークナイト」トリロジーや『インセプション』の撮影監督、ウォーリー・フィスターの初監督作で、マーフィーが演じたのはFBI捜査官ブキャナン。モーガン・フリーマン演じるタガーとコンビを組み、ジョニー・デップ扮する天才科学者ウィルの意識をインプットしたAIと対峙する役柄で、任務のためなら手段を選ばない冷徹なキャラクターはマーフィーにとっても十八番だった。
リアリティあふれる演技でサスペンスを盛り上げた『ダンケルク』
1940年、ドイツ軍の猛攻にさらされたダンケルクからの連合軍兵士の救出作戦を描いた『ダンケルク』(17)は、ノーランが初めて史実を題材にした作品だ。本作でマーフィーが演じたのは、ダンケルクからの帰還途中にUボートの攻撃で沈没しかけた船の生存者。ダンケルクに向かう民間のプレジャーボートに救出されるが、船の行き先を知ると英国に進路を変えるよう船長に迫る。PTSDを発症し悲劇を巻き起こす、ある意味最も怖いキャラクターで、マーフィーのリアルな演技がサスペンスを盛り上げた。
この作品に先立つ2013年、マーフィーは英国のテレビドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」に製作総指揮を兼ね主演している。19世紀に実在したギャング団を題材にした本作は2022年まで続く人気作になったが、マーフィーが演じたトミーは第一次世界大戦でPTSDになったギャング。その役作りが『ダンケルク』に生かされたという。