疲れた心に効能あり。『違国日記』や『海街dairy』など日常が愛おしくなる映画たち
四季の美しさ、安らげる“居場所”の大切さを教えてくれる『海街diary』
吉田秋生による大人気コミックを、是枝裕和監督が自ら脚本を手掛けて実写映画化した『海街diary』(15)。15年前から行方不明だった父の葬式で、三姉妹は中学生になる腹違いの妹すずと出会う。
しっかり者の長女・幸に綾瀬はるか、自由奔放な次女・佳乃に長澤まさみ、マイペースな三女・千佳に、『違国日記』でも柔軟で自然体な演技を見せる夏帆が、そして、不倫の子であることに負い目を抱える四女・すずに広瀬すずという華やかなキャストが演じる女性たちが、鎌倉の古い一軒家で一緒に暮らしながら、姉妹になり、家族になるまでの1年間。ゆったりと時間が流れるなか、四季折々の行事や日々の生活を共に積み重ねることで、4人が絆を育み、つらい過去も両親のことも、すべて受け入れていく姿が愛おしい。安らげる“居場所”があることのすばらしさを再認識させてくれる名作だ。
普遍的な家族の在り方を描く、『そして、バトンは渡された』
『そして、バトンは渡された』(21)は、血のつながらない親に育てられ、4回も苗字が変わった主人公・森宮優子の風変わりな人生の物語。原作は2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名小説。『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)の前田哲監督が、原作のラストを大胆に変え、構成にパズル的な仕掛けを施すことで、普遍的な家族の話を号泣必至のエンタテインメントに仕上げた。
優子役に永野芽郁。優子の血のつながらない父・森宮役に田中圭。物語のキーパーソンとなるシングルマザーの梨花を石原さとみが演じている。劇中で何度も繰り返し描かれるのは、父が娘のために毎日腕をふるう食卓の風景。回鍋肉、ロールキャベツ、オムライス…愛情たっぷりの手料理の数々を、親子で向かい合って美味しく食べるという暮らしが、優子の不幸を感じさせない明るい性格を作り、彼女自身の未来にもつながっていくところが印象的。
あなたの背中をそっと押してくれる『メタモルフォーゼの縁側』
鶴谷香央理の同名コミックを『青くて痛くて脆い』(20)の狩山俊輔監督が、芦田愛菜と宮本信子をキャストに迎えて実写映画化した『メタモルフォーゼの縁側』(22)。1冊のBLコミックをきっかけに知り合った17歳の女子高生・うららと75歳の老婦人・雪が、58歳差の心温まる友情を育んでいく。
うららと雪が大好きなBL本を持ち寄っては、本屋で、ファミレスで、縁側で、ただひたすら楽しそうに語り合う。それだけのささやかなシーンなのに、2人の姿があまりにも輝いていて胸を揺さぶられる。将来に不安を感じる思春期真っ只中のうららが、人生の大先輩の雪と出会えたことには意味がある。1人の少女が年齢も肩書も超えた心の交流をとおして自分を見つめ直し、大きな愛に支えられながら成長していく物語として描ききった美しい作品。