ジャッキー・チェンが語る、アクションと演技の両立「70歳になっても映画を作り続けたい」
「まだアクションをやれるけど、それだけではないという意思表明」
そうしたリアルな映像にこだわり続けていたジャッキーだが、いつか自分がアクション俳優としての限界が来ることを予想し、十数年前からその準備に入っていた。ずっとアクションスタントだけを続けるアクション俳優から、アクションと演技が両立できる俳優として生きていくことが、ジャッキー自身がより長く映画を撮り続けることができるという答えだったからだ。
「実は、かなり以前から自分の役者としての方向転換はずっと考えていたんです。かつては“アクションしかできない”というイメージを持っている人たちが多かったかもしれないですが、僕自身はそこから脱却して“むしろ演技もできて、アクションもできる役者ですよ”という方向に行きたかった。そういう方向転換をしないと、70歳になっても映画を作り続けることはできないし、70歳になった僕の映画を誰も観にきてくれなくなると思ったからです」
ジャッキーとアクション映画の関係と言えば、2012年に公開された『ライジング・ドラゴン』での「本格アクション映画からの引退宣言」を記憶している人も多いだろう。当時のジャッキーは、アクションを封印して本格バイオレンスアクションに挑んだ『新宿インシデント』(09)、人気ハリウッド映画のリメイク作で弟子にカンフーを教える師匠役を演じた『ベスト・キッド』(10)、辛亥革命を描いた歴史ものとなる『1911』(11)など、アクションよりも演技を重視した作品に出演。その流れでの『ライジング・ドラゴン』での「アクション映画からの引退宣言」が印象深いが、それから約10年の時を経たからこそ、『ライド・オン』という映画が生まれたとも言えるだろう。
「先ほど言ったような70歳になっても映画を作り続けたいという想いもあって、アクションは少なめで演技をメインとした映画に出演するようにしていたんです。でも、このような映画が多く公開されると、インターネットではいろんな噂が出てきて、“ジャッキー・チェンはもう歳を取ってアクションはできなくなった”、“動けなくなったからこういう映画に出ている”というようなマイナスな方向での誤解につながってしまった。だから、それではダメだと思って作ったのが『ライジング・ドラゴン』だったんです。“ジャッキー・チェンは歳を取ったけれど、相変わらずアクションをできますよ”というところを間接的にファンに見せたいという想いがあの作品にはありました。まだアクションをやれるけど、それだけではないという意思表明ですね。そういう意味では、あの時とアクションと演技を両立させている『ライド・オン』では、心持ちはまったく違うものがありますね」。
“アクション俳優”から、“アクションも演技もできる俳優”への移行。自分の年齢的な変化を自覚し、転換させてきた映画への向き合い方は、図らずも主演50周年記念作品にして、自身が70歳を迎えるタイミングでの公開となる『ライド・オン』でしっかりと証明されたと言えるだろう。一線を退きながらもスタントマンとしてのプライドとこだわりを持ち続けながらも変化に苦しみ、その一方でかけがえのない愛馬や娘への想いを見せる演技と、スタントシーンや乱闘シーンで見せるアクションの両立。そこには、かつての強くてユーモアと格好良さを両立したジャッキーから、経験値による深みを湛え、多少は衰えながらもまだまだアクションにも果敢に挑み続けるジャッキーの姿があった。そして、そのジャッキーの演技は、同じように年齢を重ねてきたファンにまだまだ元気を与え続ける。ジャッキーは老いてなお進化し続けていることを証明してもくれた。
「また、ニッポンで会いましょう」
今回は公開に合わせての来日は叶わなかったが、取材の最後に笑顔を見せながらファンへメッセージを送ってくれた。70歳を超えてもまだまだ挑戦の姿勢を崩さないジャッキーは、『ライド・オン』に続く作品を複数制作中だ。きっと近い将来、さらにファンを驚かせ、喜ばせる作品を引っ提げて、再び日本でファンに元気な姿を見せてくれるだろう。
取材・文/石井誠