快進撃を続ける河合優実…『佐々木、イン、マイマイン』から『サマーフィルムにのって』『PLAN 75』『あんのこと』へとつながる役者としての存在感に迫る
河合優実の勢いが止まらない!宮藤官九郎がオリジナル脚本を書き下ろしたドラマ「不適切にもほどがある!」で昭和の不良少女を快演して大ブレイク。さらに、人気アニメ「オッドタクシー」と世界観を共有する「RoOT / ルート」では愛嬌ゼロのクールな探偵に扮し、『あみこ』(17)の山中瑶子監督と念願の初タッグを組んだ主演映画『ナミビアの砂漠』(9月6日公開)が今年の第77回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞している。このように、話題にこと欠かない河合だが、彼女の快進撃はいまに始まったことではない。
作品の肝となる人物を演じ、観客に強い印象を残す
初期の代表作『佐々木、イン、マイマイン』(20)では中盤からの出演ながら、主人公である悠二(藤原季節)の学生時代の友人、佐々木(細川岳)がカラオケでひと目惚れする女性、苗村を好演。西岡恭蔵の名曲「プカプカ」を雰囲気たっぷりに熱唱し、佐々木を魅了するその役柄に説得力を持たせると、部屋に突然入ってきて「一緒にカラオケを歌いたい」という彼に戸惑いながらも、その申し出を受け入れる彼女の人となりを微妙な距離感とやり取りで一瞬にして伝えていた。
佐々木と別れたあとの早朝の笑顔と佇まいだけで、その後の彼らの関係を観る者に想像させるハードルの高いミッションをこの時点ですでにクリアしていたのも印象的だ。それらの一連がちゃんと成立していたから、ラストのクラクションを鳴らしながら号泣する苗村の悲しみが胸に迫ってきたのは間違いない。
振り返ってみると、河合はそのころから作品の肝となる重要な役どころを担うことが多かった。女子高生のいじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内公美)が、学習塾を経営する父、政志(光石研)の愚行を知ったことから究極の選択を迫られることになる『由宇子の天秤』(20)でも、河合が演じた女子高生の萌が物語を根底から覆す。
ネタバレになるので詳細には触れないが、彼女自身は経験したことのない萌の痛みや苦しみを背負い、それを自然な涙と共に放出しているから、私たちも由宇子が直面する大きな問題と人間の愚かさ、社会の不条理を彼女と一緒に考えさせられることになった。
クセのある女子高生役も卓越した読解力で自分のものに
さらに、『サマーフィルムにのって』(20)では主人公の時代劇オタクの女子高生ハダシ(伊藤万理華)の幼なじみで、ちょっと内気なメガネ女子のビート板を低いテンションと小さな声、いつもと違うおかっぱヘアで体現。瞳の動きと全身からほとばしる輝きで、映画作りに撮影で参加した彼女の高揚感や、友たち想いのキャラクターをさりげなく印象づけていたのも記憶に新しい。
同じ内気な高校生でも、『女子高生に殺されたい』(21)で演じたあおいはかなり異色のキャラクターだが、演者にとっては挑戦し甲斐のあるこの役も河合は完璧に自分のものにしていた。
“女子高生に殺されたい”。そんな歪んだ欲望を抱く高校教師の春人(田中圭)がどの女子高生にいつ殺されたいのか?を予想しながら観るミステリ仕立ての構成もおもしろい本作。親友の真帆(南沙良)に付き添ってもらいながら保健室にいることが多いあおいは、誰よりも地味で影が薄く、地震が来るのを予測できる不思議な力を持っているところも彼女の風変わりなキャラを強調していた。
そんなあおいを、河合はおどおどした言動と他人と視線を合わせられない瞳で楽しみながら演じていたに違いない。なぜなら、あおいは本作の最大のトラップ。それまでの風景をガラリと変える、クライマックスの彼女こそ、河合がこの作品で一番見せたかった姿だったような気がする。