埼玉・川口に次代を担う才能が集結!「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024」国際コンペティション10作品の見どころは?

コラム

埼玉・川口に次代を担う才能が集結!「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024」国際コンペティション10作品の見どころは?

オスカー受賞監督が描く、戦時下の葛藤『Before It Ends(英題)』

【写真を見る】1,015本の応募のなかから厳正な審査で選りすぐられた10本が上映!オスカー受賞監督の作品も
【写真を見る】1,015本の応募のなかから厳正な審査で選りすぐられた10本が上映!オスカー受賞監督の作品も[c]2023 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

少年の空想世界を圧巻の映像美で表現した短編『Helium』で第86回アカデミー賞短編実写映画賞を受賞したアンダース・ウォルター監督。ニューヨークでイラストレーションと映画を学び、映画ポスターや漫画、ミュージックビデオなど多岐にわたる分野でその才能を発揮してきたウォルター監督が、『バーバラと心の巨人』(17)に続く長編2作目として手掛けたのが、『Before It Ends(英題)』。

物語の舞台は第二次世界大戦化のデンマーク。ドイツの占領下にあった市民大学の校長ヤコブは、ドイツ人難民を受け入れるよう命じられる。しかし疫病が蔓延し、次々と難民が命を落としていく。彼らを助ければ裏切り者の烙印が押されてしまうと戸惑い、葛藤するヤコブと妻のリス。一方、12歳の息子セアンは両親の姿に不満を抱き、レジスタンス活動を手伝い始める。戦争という暴力のなかで、いかにして人間性を保つのかという、現在進行形のテーマを扱う繊細で重厚な一本だ。

困難な現状を打破しようとする子役の姿に注目の『嬉々な生活』

谷口慈彦監督の長編第2作『嬉々な生活』
谷口慈彦監督の長編第2作『嬉々な生活』[c]belly roll film

本映画祭の常連監督の1人である磯部鉄平監督の『コーンフレーク』(20)や『凪の憂鬱』(23)、『夜のまにまに』(23)でプロデューサーを務めた谷口慈彦の2作目の長編作品となる『嬉々な生活』は、困難な状況でも精一杯に生きようとする子どもたちの堂々とした演技が見どころ。

両親と幼い弟と妹と5人で幸せな日々を過ごしていた中学生の嬉々。しかし、一家の精神的な支えであった母が突然他界し生活は一変。父は失業し、嬉々は弟と妹の面倒をみながらアルバイトで家計を支えようとするがうまくいかない。そんなある日、元担任教師の高妻の意外な場面を目撃し、高妻の協力で現状の生活を変えようとするのだが…。

女性カップルがたどる、10年間の愛の物語『子を生(な)すこと』

個の尊厳や愛する者と生きる喜びや葛藤が描かれるドキュメンタリー『子を生(な)すこと』
個の尊厳や愛する者と生きる喜びや葛藤が描かれるドキュメンタリー『子を生(な)すこと』[c]Kloos&Co

東ベルリンで育ち、コンラート・ヴォルフ映画テレビ大学ポツダムで演出を学んだ後、世界各地で短編・中編ドキュメンタリー映画や短編風景映画を制作してきたジュディス・ボイト監督。彼女の初長編ドキュメンタリー映画『子を生(な)すこと』は、ボイト監督の古くからの友人であるマリアと、そのパートナーであるクリスティアーネの10年間を追った作品。

障害を抱え、アーティストとして活動するマリアと、訪問看護師として彼女の元を訪れたクリスティアーネ。恋に落ち、共に暮らし始めた2人は子どもを生したいと望み、医療制度内の障害や肉体的かつ時間的な制約といった数々の困難に向き合いながら、ひとつずつ可能性を探り取り組んでいく。個としての尊厳や、互いへの尊重、愛するものと共に生きる喜びと葛藤、そうした普遍的なテーマに触れる物語だ。

“モンテッソーリ教育”の生みの親の劇的な人生『マリア・モンテッソーリ』

世界を変えた1人の女性の人生が色鮮やかに描かれる『マリア・モンテッソーリ』
世界を変えた1人の女性の人生が色鮮やかに描かれる『マリア・モンテッソーリ』[c]GEKO FILMS - TEMPESTA FILM

1898年、未婚のまま息子マリオを出産したマリア・モンテッソーリは、田舎の乳母に無期限でマリオを預けることを決める。そして彼女はイタリアで女性として初めて医師となり、障害児と接する教師を養成する研究所を設立。フランス人高級娼婦リリと連帯のネットワークを形成し、自立を可能にするだけでなく、心の自律性を信じる教育法を確立していく。

ドキュメンタリー作家として活動してきたレア・トドロフ監督の初の長編作品となった『マリア・モンテッソーリ』は、テイラー・スウィフトや藤井聡太が受けたことでも注目されている“モンテッソーリ教育”の生みの親であるマリア・モンテッソーリーの劇的な人生を色鮮やかに描写した一本。医師として教育者として、そして母親として、世界を変えた強く知的な女性の物語からは多くの学びを得られることだろう。


ハンガリーの気鋭が、名文学を大胆に翻案『マスターゲーム』

『この世界に残されて』のトート監督の最新作『マスターゲーム』
『この世界に残されて』のトート監督の最新作『マスターゲーム』[c]Lenke Szilágyi

『Chuchotage』(18)が第91回アカデミー賞短編実写映画賞のショートリスト入りを果たし、続く長編『この世界に残されて』(19)も第92回アカデミー賞国際長編映画賞のショートリスト入りを果たしたハンガリーの新鋭バルナバーシュ・トート監督。彼の長編第3作となる『マスターゲーム』は、シュテファン・ツヴァイクの小説「チェスの話」を、1956年のハンガリー動乱を舞台に大胆に翻案した一本。

1956年のハンガリー動乱下のブダペスト。民衆蜂起を制圧するソ連軍の追跡を逃れたマールタとイシュテヴァーンは、西へと向かう最後の列車に飛び乗る。一方、あるカトリックの神父は当局に拘束され、ヴァチカンの財産をめぐり拷問を受けていた。それぞれの人生が、亡命列車で繰り広げられるチェスゲームを通して交錯する。大胆な演出と、細かく散りばめられた伏線で、最後まで片時も目が離せない作品に仕上がっている。

■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024
日程:【スクリーン上映】7月13日(土)~21日(日)、【オンライン配信】7月20日(土)~24日(水)
会場:SKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザ 映像ホールほか
内容:国際コンペティション、国内コンペティション(長編部門、短編部門) ほか
URL:https://www.skipcity-dcf.jp/

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