『ジョン・ウィック』に『オールド・ボーイ』『死亡遊戯』などなど!『スラムドッグ$ミリオネア』主演俳優が初監督作で見せるアクション映画へのリスペクト
パテル自身が過激なアクションに挑戦!
本作一番の見どころはもちろんアクション。格闘戦をはじめ銃撃戦、カーチェイスなど多彩な見せ場が全編に詰め込まれている。狭いスラム街の建物を縦横無尽に駆け巡るキッドと警察隊のスリル満点の追走劇、オートリキシャがパトカーや白バイと狭い路地で繰り広げる体感的カースタント、狭いトイレやエレベーターで繰り広げる激闘など、凝ったカメラワークや編集を含めどれも見応え満点。
これら格闘シーンを含めた多くのアクションをパテル自らが熱演。俳優デビュー前にはテコンドーの選手として、国際大会3位に輝いた高い身体能力がいかんなく発揮されている。延々と闘い続ける長回しのバトルも多く、緊迫感にあふれて一瞬たりとも気が抜けない。アクションの撮影中、パテルは骨折を含め何度も負傷しながら演じたというが、それも納得の過激な立ち回りのオンパレードだ。
敬愛するブルース・リー作品からの影響
そんな本作についてパテルは、セリフでも言及する『ジョン・ウィック』(15)をはじめ、『ザ・レイド』(11)、『オールド・ボーイ』、『アジョシ』(10)や多くのインド映画からインスピレーションを受けたと語っており、ほかにも『マッハ!』(03)や『レスラー』(08)、『タクシードライバー』(76)などの映画のエッセンスが感じられる。
なかでもパテルが特に影響を受けたのが、少年時代に出会ったブルース・リーだ。たしかにレストラン上層階のVIPエリアに乗り込む山場で、フロアを移動しながら並みいる敵とバトルを繰り広げる様はリーの遺作『ブルース・リー 死亡遊戯』(78)と同じ。ラナとの雪辱戦は『燃えよドラゴン』(73)における鏡張りの部屋での死闘を思わせたし、ラナを操るラスボスと対峙するクライマックスにも同作に似た仕掛けがされていた。そもそも母親の復讐のため敵地に潜入する展開は、死んだ妹の敵討ちを描いた『燃えよドラゴン』や身内を殺した権力者に戦いを挑む『ドラゴン危機一発』(70)の踏襲。復讐に燃えるキッドだが、荒々しさを内に秘め求道者のようにたたずむ姿もリーが演じたキャラクターと重なる。先人たちの作品群を血や肉として消化し、イースターエッグなど「お遊び」抜きでオリジナル作品に仕立てたパテルの姿勢には清々しさを感じた。
容赦なきバイオレンスを満載した本作だが、観終えたあとに感じるのは心地よいカタルシス。底辺で生きる社会のアウトサイダーやマイノリティが底力を発揮する、負け犬の逆転劇に共感を覚える人も多いだろう。『ジョン・ウィック』のような洗練されたアクションとはまた違う、不器用な男のとびきり熱い生き様をスクリーンで味わってほしい。
文/神武団四郎