大森時生が考える、“ファウンド・フッテージ”の未来予想図。「このテープ」「行方不明展」から『悪魔と夜ふかし』へ

インタビュー

大森時生が考える、“ファウンド・フッテージ”の未来予想図。「このテープ」「行方不明展」から『悪魔と夜ふかし』へ

「『悪魔と夜ふかし』には、ファウンド・フッテージの手法が効果的に取り入れられています」

そんな大森がいま注目しているのが、10月4日に公開されたばかりの映画『悪魔と夜ふかし』で、生放送番組の封印されたマスターテープが発見されたという“ファウンド・フッテージ”の様式を取り入れたホラー映画だ。今春の北米公開時には批評家の称賛を集め、映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」のスコアは97%を記録。かねてよりホラーファンのあいだで話題になっていた『悪魔と夜ふかし』だが、大森も同様に公開を待ちわびていたそう。

物語は、1977年のハロウィン深夜に放送された生番組「ナイト・オウルズ」のマスターテープが発見されるところから始まる。その日の放送では、司会者のジャック・デルロイ(デヴィッド・ダストマルチャン)が人気低迷からの挽回をねらって怪しげな超常現象を次々と紹介。その目論見通り、番組は過去最高の視聴率を記録した。しかし、悪魔に取り憑かれた13歳の少女リリー(イングリッド・トレリ)の登場をきっかけに思いも寄らぬ惨劇が巻き起こることとなる。

大森自身が手掛けた作品にも、本作と同様に“過去に作られたテレビ番組の奇妙な映像が発掘される”という設定の「このテープもってないですか?」がある。同作はスタジオにいるいとうせいこうと井桁弘恵らが、1980年代に放送された「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」という深夜番組の貴重な録画映像を観てコメントするという内容。初回は“昭和のテレビあるある”を楽しむコメディ調の内容だが、2回目、3回目と回を重ねるごとに違和感が増えていき、不穏な空気が番組全体を呑み込んでいく…というホラー作品だ。

生放送のトーク番組で起きた惨劇を“ファウンド・フッテージ”として描いた『悪魔と夜ふかし』
生放送のトーク番組で起きた惨劇を“ファウンド・フッテージ”として描いた『悪魔と夜ふかし』[c]2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

「率直に、エンタテインメントとしておもしろかったです」と『悪魔と夜ふかし』の感想を語りだした大森に「このテープ」との共通点について問うと、「構造は確かに似ていますね。でも『悪魔と夜ふかし』は劇映画ですから、整合性に囚われていないぶん『このテープ』よりスイング感があります」と顔を綻ばせる。

「監督のコリン&キャメロン・ケアンズ兄弟も元テレビマンだと聞いています。もともと自分たちがいた場所だから、舞台設定を活かした映画を作ることができたのでしょう」と同業者ならではの視点を覗かせる。「仮にこのシチュエーションを一般的なカット割りで見せたらここまでおもしろくはならなかったと思います。“本当に放送されたもの”として描くから成立しているわけで、手法としてのファウンド・フッテージが非常に効果的に取り入れられていると思います」。

生バンドなど、スタジオ内のあらゆるものが恐怖の要素として活用される
生バンドなど、スタジオ内のあらゆるものが恐怖の要素として活用される[c]2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

さらに大森は、劇中で特におどろかされた表現があったと声を弾ませる。「スタジオにテルミン(※編集部注:手をかざすことで演奏する電子楽器)が置いてあって、怪現象によって鳴りだすことでSE(サウンド・エフェクト)として機能する。これは大発明です!自由にSEを付けることができないということが、ファウンド・フッテージの弱点の一つ。入れるとしてもノイズとか、その場で聞こえてもおかしくない音でないといけません。誰がこの不気味な音をつけたのか?ということが気になってしまいますから。しかし、ホラーの最大の武器は音です。このやり方を使えば、もっと可能性が広がるのかなと思いました。僕もみんなが忘れた2年後くらいに、しれっと使ってみようと思います(笑)」。

「オーストラリア・ホラーには、Jホラーに近しい作家性を感じます」

『悪魔と夜ふかし』の特異点について尋ねると、大森は「ファウンド・フッテージ部分の多さ」を挙げた。「数年前に流行った台湾映画の『呪詛』のように、大きな物語のなかの一要素としてファウンド・フッテージの手法を取り入れるのがいまのトレンドです。この手法には、短い映像を積み重ねることで、長い作品を観ることに耐性がない人であっても作品の世界観に導きやすいという利点があります。ですが『悪魔と夜ふかし』の場合は、あえてその逆のアプローチを行なっていました」。

1970年代の実際のアーカイブ映像が入ることで、没入感を強固なものにしていく
1970年代の実際のアーカイブ映像が入ることで、没入感を強固なものにしていく[c]2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

つまりファウンド・フッテージ部分が、映像の長さとしても圧倒的分量なのだ。“生放送された番組”の映像が劇中の大半を占めており、司会者ジャックのバックグラウンドや時代背景を解説したドキュメンタリー部分、CM中の舞台裏の様子が合間にインサートされていく。

「『なぜそんな映像が残っているのか』という疑問を感じさせないほど、舞台裏の映像が堂々と流れます。理由はシンプルで、単純にフィクションとしての強度を高めるために必要だったのだと思います。その潔い割り切り方も含めて、ケアンズ兄弟の視点にはとても興味深いものがあります」と、演出の剛腕さに舌を巻く。


悪魔に取り憑かれた少女の登場で、怒涛のクライマックスがはじまる
悪魔に取り憑かれた少女の登場で、怒涛のクライマックスがはじまる[c]2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

大森は、彼らや『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(23)のフィリッポウ兄弟のような気鋭作家が次々と生まれているオーストラリア・ホラーの強みとして、“ハリウッドの影響を受けづらい”ことを挙げる。「スタジオ主導で万人受けするカタルシスに流れがちなアメリカン・ホラーと違い、繊細な物語に収束していく展開は、むしろJホラーに近しい作家性を感じます。そういった点でも、『悪魔と夜ふかし』は日本の観客に広く受け入れられると思います」。

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